《にんげん》の苦《くる》しみを救《すく》って、この世《よ》の中を善《よ》くしてやりたいと思《おも》って、はるばる西《にし》の方《ほう》からやって来《き》た者《もの》です。しばらくの間《あいだ》あなたのおなかを借《か》りたいと思《おも》う。」
 といいました。
 お妃《きさき》はびっくりなすって、
「そういう貴《とうと》いお方《かた》が、どうしてわたくしのむさくるしいおなかの中などへお入《はい》りになれましょう。」
 とおっしゃいますと、その坊《ぼう》さんは、
「いや、けっしてその気《き》づかいには及《およ》ばない。」
 と言《い》うが早《はや》いか踊《おど》り上《あ》がって、お妃《きさき》の思《おも》わず開《あ》けた口の中へぽんと跳《と》び込《こ》んでしまったと思《おも》うとお夢《ゆめ》はさめました。
 目《め》がさめて後《のち》お妃《きさき》は、喉《のど》の中に何《なに》か固《かた》くしこるような、玉《たま》でもくくんでいるような、妙《みょう》なお気持《きも》ちでしたが、やがてお身重《みおも》におなりになりました。
 さて翌年《よくねん》の正月元日《しょうがつがんじつ》の朝《あさ》、
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