、その使っているこびと[#「こびと」に傍点]から、この知らせをすぐうけとりました。そのこびとは、『七里とびの長ぐつ』といって、ひとまたぎに七里ずつあるく長ぐつをはいて、かけて行ったのです。それで、妖女《ようじょ》はさっそくそこを出て、竜《りゅう》にひかせた火の車に乗ると、ちょうど一時間で、王様のお城につきました。
王様は、お手ずから、妖女を馬車から助けおろしました。妖女は、王様のなさったことを、すべてけっこうですといいました。でも、たいへん先のことのよく見える妖女でしたから、百年ののちに、お姫さまがせっかく目をさましても、この古いお城の中に、たったひとり、ぽつねんとしているのでは、どうしていいか、わからなくて、さぞお困りになるだろうと思いました。
そこで、なにをしたでしょうか。妖女は、魔法《まほう》の杖《つえ》をふるって、王様とお妃をのぞいては、お城のなかの物のこらず、それはおつきの女教師《おんなきょうし》から、女官《じょかん》から、おそばづきの女中《じょちゅう》から、宮内《くない》官、表役人《おもてやくにん》、コック長、料理番《りょうりばん》から、炊事係《すいじがかり》、台所ボーイ、番兵、おやといスイス兵、走り使いの小者《こもの》までのこらず、杖《つえ》でさわりました。それから、おなじようにして、べっとうといっしょに、うまやでねている馬も、裏庭に遊んでいるむく犬も、お姫さまのねだいの上で眠っているお手|飼《がい》の狆《ちん》までも、みんな魔法の杖でさわりました。
魔法の杖でさわると、すぐ、たれもかれも、なにもかも、たわいもなく眠りこけてしまって、お姫さまが目がさますまでは、けっして目をさましませんし、お姫さまに用事ができれば、いつでも目をさまして、御用をつとめるはずでした。なにもかも眠ってしまったといって、それはかまどの前の焼きぐしまでが、きじや、やまどりの肉をくしにさしたまま、やはり眠ってしまいました。これだけのことが、みんな、ほんの目《ま》ばたきひとつするまに、できあがってしまいました。妖女《ようじょ》というものは、まったくしごとの早いものですね。
さてそこで、王様とお妃とは、お姫さまのひたいに、そっと、やさしくほおずりして、お城から出て行きました。そうしておいて、たれもお城に近づくことはならないという、きびしいおふれを、また国じゅうにまわしました。
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