た。「なんてきれいなんでしょう。それはどういうふうにやるものなの。あたしにかしてごらんなさいな。あたしにもできるかどうか、やってみたいから。」
お姫さまは、こういって、そのつむを、手にとりましたが、それは持ち方がいけなかったのか、たいへんあわてて、ぶきような持ち方をしたのか、それとも、あのわるい妖女《ようじょ》ののろいのことばが、いよいよしるしをあらわすときになったのか、とたん、つむ[#「つむ」に傍点]は、いきなり王女の手にささって、王女はばったり、そこに倒《たお》れてしまいました。
人のいいおばあさんは、あわてて人を呼びました。みんな、お城のそこからもここからも、かけ出してきました。お姫さまの顔に水をそそぎかけたり、ひもをといて着物をゆるめたり、手のひらをたたいてみたり、ハンガリア女王の水という薬で、こめかみ[#「こめかみ」に傍点]をもんだり、いろいろにしてみても、王女は息をふきかえしませんでした。
さて、王様はこのさわぎを聞いて、さっそくかけつけておいでになりました。そうして十五年むかしの妖女《ようじょ》のよげん[#「よげん」に傍点]を思い出しながら、やはりこうなるうんめい[#「うんめい」に傍点]だったことをさとって、お姫さまを、そのまま、お城のなかでも、いちばん上等のへやにつれて行かせ、金と銀のぬいとりをした、[#「、」は底本では「。」]きれいなねだいの上にねかしました。
ねだいの上に、すやすや眠っておいでになるお姫さまの、美しさといってはありません。それはちいさな天使だといってもいいくらいでした。人ごこちがなくなっていても、生きているとおりの顔いろをしていて、ほおは、せきちく色をしていましたし、くちびるは、さんご[#「さんご」に傍点]をならべたようでした。目こそつぶってはいますものの、かすかに息をする音は聞こえます。それで、王女が死んでいないということがわかったので、まわりについている人たちは、よろこんでいました。
王様はそこで、やがて人が来て、目をさまさせるまで、しずかにねかしておくようにと、きびしくおいいつけになりました。
さて、王女を百年のあいだ眠らせることにして、やっと、あやういいのち[#「いのち」に傍点]をとりとめた、あの心のいい妖女は、ちょうどこのさわぎの起こったとき、一|万《まん》二千|里《り》はなれた、マタカン国に行っていましたが
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