とにかくねずみは 残らず死んだ。
あとににおいも 残らぬように、
それ壁《かべ》をぬれ それ穴《あな》ふさげ。
市長も議員も ほくほく顔で、
鐘《かね》をならして 町じゅうの祝い。
そのお祝の まっさいちゅうに、
ひょっこり帰った 笛吹き男。
『さあ約束《やくそく》だ お礼の千円、
すぐにはらってもらいたい。』
きいて市長は また青い顔。
みすみす旅の 風来坊《ふうらいぼう》に、
千円とられちゃ たまらない。
『あれはまったく 冗談《じょうだん》、冗談《じょうだん》、
五十円なら あげましょ。』と、
市長は横むいて 知らん顔。
『これこれ冗談《じょうだん》 いいっこなし、
わたしは急ぎの 旅の者、
早く千円 もらいたい。
出さぬというなら もう一度、
音《ね》いろのちがった 笛を吹く。』
『たれがおどしに のるものか、
吹きたきゃなんでも 吹くがいい、
きさまのような 素乞食野郎《すこじきやろ》に
千円とられて なるものか、
五十円なら 相当《そうとう》だ。』
腹を立てたる 笛吹き男、
四辻に立って 笛、口にあて、
ピュウロ、ピュウロと また吹き立てる、
どんな上手な 音楽師
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