一生けんめい、
町のねずみの おどりの行列、
ぞろぞろがやがや あとおいかける。

ピュウロ、ピュウロと 笛吹きたてる。
ねずみは夢中《むちゅう》で あとから走る。
はや目の前に ウェーゼル河の
岸まで来ると 笛吹き男、
これを限りと 笛吹きたてる。

こりゃたまらない てんと面白い、
河でも海でも かまうこたないぞ、
とびこめ、とびこめ 大うかれねずみ。
あとからあとから どんぶりこっこ、
ぶくぶくぶくぶく おぼれて死んだ。

なかに一ぴき 肥《ふと》っちょねずみ、
こりゃたまらぬと 一生けんめい、
河をわたって ねずみの国へ、
しらせをもって ほうほう逃げた。
それにはなんと 書いてある――

はじめ笛の音 きこえた時にゃ、
牛のはらわた 食いかくような、
林檎《りんご》の甘汁《あまじる》 しぼり出すような、
冷蔵箱《れいぞうばこ》のふた 取るような、
うまそうな匂《にお》いが ぷんぷんたった。

『食べろよ食べろ ねずみたち食べろ、
世界じゅうが 食料店になったぞよ。』
きくと、うかうか 皆だまされた。
『だって ふしぎさ あの大《おお》河が、
ごちそうの海に 見えたもの。』


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