て、庭《にわ》の上はかんかん明《あか》るく見《み》えました。けれどもきょうだいの姿《すがた》はどこにも見《み》えませんでした。さんざんさがしてさがしてくたびれて、のどが渇《かわ》いたので、水《みず》を飲《の》もうと思《おも》って、山姥《やまうば》が井戸《いど》のそばに寄《よ》ると、桃《もも》の木の上にかくれているきょうだいの姿《すがた》が、水《みず》の上にはっきりとうつりました。
「小用《こよう》に行くなんて人をだまして、そんなところに上《あ》がっているのだな。」
と、山姥《やまうば》は木の上を見上《みあ》げて、きょうだいをしかりました。その声《こえ》を聞《き》くと、きょうだいはひとちぢみにちぢみ上《あ》がってしまいました。
「どうして登《のぼ》った。」
と、山姥《やまうば》が聞《き》きますから、
「びんつけを木になすって登《のぼ》ったよ。」
と、太郎《たろう》がいいました。
「ふん、そうか。」
といって、山姥《やまうば》はびんつけ油《あぶら》を取《と》りに行きました。きょうだいが上でびくびくしていると、山姥《やまうば》はびんつけを取《と》って来《き》て、桃《もも》の木にこてこてなすりはじめました。
「それ、登《のぼ》るぞ。」
といいながら、山姥《やまうば》は桃《もも》の木に足《あし》をかけますと、つるり、びんつけにすべりました。それからつるつる、つるつる、何度《なんど》も何度《なんど》もすべりながら、それでも強情《ごうじょう》に一|間《けん》ばかり登《のぼ》りましたが、とうとう一息《ひといき》につるりとすべって、ずしんと地《じ》びたにころげ落《お》ちました。
すると次郎《じろう》が上から、
「ばかな山姥《やまうば》だなあ、びんつけをつけて木に登《のぼ》れるものか。なたで切《き》り形《がた》をつけて登《のぼ》るんだ。」
といって笑《わら》いました。
「そのなたはどうした。」
と、山姥《やまうば》が聞《き》きますから、
「なたは井戸《いど》のそこに入《はい》っているよ。」
と、次郎《じろう》はいってまた笑《わら》いました。山姥《やまうば》は井戸《いど》のそこをのぞいてみましたが、とても手がとどかないので、くやしがって、物置《ものおき》から鎌《かま》をさがして来《き》て、桃《もも》の木のびんつけを削《けず》り落《お》として、新《あたら》しく切《き》り形
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