》きました。
「おなかがすいたから、たくあんを食《た》べているのだよ。」
と、山姥《やまうば》がいいました。
「わたいも食《た》べたいなあ。」
と、次郎《じろう》がいいました。
「さあ、上《あ》げよう。」
と、山姥《やまうば》はいって、三郎《さぶろう》の小指《こゆび》をかみ切《き》って、子供《こども》たちの居《い》る方《ほう》へ投《な》げ出《だ》しました。太郎《たろう》がそれを拾《ひろ》ってみると、暗《くら》くってよく分《わ》かりませんけれど、何《なん》だか人間《にんげん》の指《ゆび》のようでした。太郎《たろう》はびっくりして、そっと布団《ふとん》の中で、次郎《じろう》の耳《みみ》にささやきました。
「奥《おく》に居《い》るのは山姥《やまうば》にちがいない。山姥《やまうば》がおかあさんに化《ば》けて、三郎《さぶろう》ちゃんを食《た》べているのだよ。ぐずぐずしていると、こんどはわたいたちが食《た》べられる。早《はや》く逃《に》げよう、逃《に》げよう。」
太郎《たろう》と次郎《じろう》はそっと相談《そうだん》をしていますと、奥《おく》ではもりもり山姥《やまうば》が三郎《さぶろう》を食《た》べる音《おと》が、だんだん高《たか》く聞《き》こえました。
その時《とき》次郎《じろう》は布団《ふとん》から頭《あたま》を出《だ》して、
「おかあさん、おかあさん、お小用《こよう》に行きたくなりました。」
といいました。
「じゃあ、起《お》きて外《そと》へ出て、しておいでなさい。」
「戸《と》があきません。」
「にいさんにあけておもらいなさい。」
そこで太郎《たろう》と次郎《じろう》は逃《に》げ支度《じたく》をして、のこのこ布団《ふとん》からはい出《だ》して、戸《と》をあけて外《そと》へ出ました。空《そら》はよく晴《は》れて、星《ほし》がきらきら光《ひか》っていました。二人《ふたり》はお庭《にわ》の井戸《いど》のそばの桃《もも》の木に、なたで切《き》り形《がた》をつけて、足《あし》がかりにして木の上まで登《のぼ》りました。そしてそっと息《いき》を殺《ころ》してかくれていました。
いつまでたっても、きょうだいがお小用《こよう》から帰《かえ》って来《こ》ないので、山姥《やまうば》はのそのそさがしに出て来《き》ました。明《あ》け方《がた》の月《つき》がちょうど昇《のぼ》りかけ
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