いで鏡《かがみ》の前《まえ》へ行って見《み》ますと、まあ、驚《おどろ》きました、頭《あたま》からしっぽの先《さき》まで真《ま》っ黒々《くろぐろ》と、目も鼻《はな》も分《わ》からないようになっているではありませんか。そこで烏《からす》は、よけい真《ま》っ黒《くろ》になっておこりながら、
「何《なん》だってこんな色《いろ》に染《そ》めたのだ。」
 といいますと、ふくろうは、
「だって外《ほか》に類《るい》のない色《いろ》といえば、これだよ。」
 といって、すましていました。烏《からす》はくやしがって、
「よしよし、ひとをこんな目に合《あ》わせて。今《いま》にきっとかたきをとってやるから。」
 とうらめしそうにいいました。
 その時《とき》から烏《からす》とふくろうとは、かたき同士《どうし》になりました。そしてふくろうは烏《からす》のしかえしをこわがって、昼間《ひるま》はけっして姿《すがた》を見《み》せません。

     蜜蜂《みつばち》

 むかし、むかし、大昔《おおむかし》、神《かみ》さまがいろいろの生《い》き物《もの》をお作《つく》りになった時《とき》に、たくさんの蜂《はち》をお作《つく》りになりました。そのたくさんの蜂《はち》の中に、蜜蜂《みつばち》だけが針《はり》を持《も》っていませんでした。蜜蜂《みつばち》は不足《ふそく》そうな顔《かお》をして、神《かみ》さまの所《ところ》へ行って、
「ほかの蜂《はち》はみんな針《はり》を持《も》っておりますが、わたくしだけは針《はり》がありません。どうか針《はり》をつけて下《くだ》さい。」
 といいました。
「いいや、お前《まえ》は人間《にんげん》に飼《か》われるのだから、針《はり》はいらない。ぜひほしいというなら、針《はり》をやってもいいが、人間《にんげん》を刺《さ》すことはならないぞ。もし間違《まちが》えて刺《さ》したら、針《はり》が折《お》れて、命《いのち》がなくなるぞ。」
 と、神《かみ》さまがおっしゃいました。
「けっして刺《さ》しませんから、どうぞ針《はり》を下《くだ》さい。」
 と、蜜蜂《みつばち》がいいました。
「それなら針《はり》をやろう。」
 と、神《かみ》さまがおっしゃって、蜜蜂《みつばち》に針《はり》を下《くだ》さいました。そこで約束《やくそく》のとおり、蜜蜂《みつばち》には針《はり》はあっても、人
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