ますが、日本《にほん》は、小さなやさしい国柄《くにがら》ですから、この国《くに》に住《す》みつくといっしょに、このとおり小さなやさしい獣《けもの》になったのでございます。しかし一|度《ど》ほんとうにおこって、元《もと》の虎《とら》の本性《ほんしょう》に返《かえ》りますと、どんな獣《けもの》でも恐《おそ》れません。それ故《ゆえ》こんどお上《かみ》からおふれが出て、放《はな》し飼《が》いになったのを幸《さいわ》い、さしあたりねずみどもを手《て》はじめに、人間《にんげん》にあだをする獣《けもの》を片《かた》っぱしから退治《たいじ》するつもりでいるのです。」
 と言《い》いました。
 和尚《おしょう》さんは猫《ねこ》のこうまんらしく述《の》べ立《た》てる口上《こうじょう》を、にこにこして聞《き》きながら、
「うん、うん、それはお前《まえ》の言《い》うとおりだとも。だからねずみの言《い》うことは取《と》り上《あ》げずに帰《かえ》してやったのだから、安心《あんしん》おしなさい。」
 と言《い》いました。
 そこで猫《ねこ》はすっかりとくいになって、尾《お》をふり立《た》てながら、みんなが首《くび》
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