じにして飼《か》っておいたのです。それで猫《ねこ》が自由《じゆう》にかけまわってねずみを取《と》るということがありませんでしたから、とうとうねずみがそんな風《ふう》に、たれはばからずあばれ出《だ》すようになったのでした。
 けれどもおふれが出て、猫《ねこ》の綱《つな》がとけますと、方々《ほうぼう》の三毛《みけ》も、ぶちも、黒《くろ》も、白《しろ》も自由《じゆう》になったので、それこそ大喜《おおよろこ》びで、都《みやこ》の町中《まちじゅう》をおもしろ半分《はんぶん》かけまわりました。どこへ行ってもそれはおびただしい猫《ねこ》で、世《よ》の中はまったく猫《ねこ》の世界《せかい》になったようでした。
 こうなると弱《よわ》ったのはねずみです。きのうまで世《よ》の中をわが物顔《ものがお》にふるまって、かって気《き》ままなまねをしていた代《か》わりに、こんどは一|日《にち》暗《くら》い穴《あな》の中に引《ひ》っ込《こ》んだまま、ちょいとでも外《そと》へ顔《かお》を出《だ》すと、もうそこには猫《ねこ》が鋭《するど》い爪《つめ》をといでいました。夜《よる》もうっかり流《なが》しの下《した》や、台所《
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