》らしく手《て》を合《あ》わせて、和尚《おしょう》さんをおがみました。
 和尚《おしょう》さんはしばらく考《かんが》えていましたが、
「なるほど、そう聞《き》くと気《き》の毒《どく》だが、お前《まえ》の方《ほう》にもいろいろ悪《わる》いことがあるよ。まあ、お前《まえ》たちも人のすてたものや、そこらにこぼれた物《もの》を拾《ひろ》って食《た》べていればいいのだが、これまでのように、夜昼《よるひる》かまわず、人のうちの中をかけまわって盗《ぬす》み食《ぐ》いをしたり、着物《きもの》を食《く》いやぶったり、さんざん悪《わる》いいたずらばかりしておきながら、今更《いまさら》猫《ねこ》に苦《くる》しめられるといって泣《な》き言《ごと》を言《い》いに来《き》ても、それは自業自得《じごうじとく》というもので、わたしにだってどうしてもやられないよ。」
 こう言《い》われて、ごま塩《しお》ねずみもがっかりして、すごすご帰《かえ》っていきました。
 もとの縁《えん》の下《した》へ帰《かえ》って来《き》てみますと、じいさんねずみも、若《わか》ねずみも、大《おお》ねずみも、小《こ》ねずみもみんなさっきのままで、首《くび》を長《なが》くして、ひげを立《た》てて、ごま塩《しお》ねずみが今《いま》帰《かえ》るか、今《いま》帰《かえ》るかと待《ま》ちかねていました。けれどもごま塩《しお》ねずみがしおしおと、和尚《おしょう》さんに会《あ》ってことわられた話《はなし》をしますと、みんなはいっそうがっかりして、またわいわい、いつまでもまとまらない相談《そうだん》をはじめました。そのうちに夜《よ》が明《あ》けてしまったので、こんなに大《おお》ぜい集《あつ》まっているところをうっかり猫《ねこ》に見《み》つけられては、それこそたいへんだといって、
「じゃあ、あすの晩《ばん》もう一|度《ど》和尚《おしょう》さんの所《ところ》へみんなで行《い》って、頼《たの》むことにしよう。」
 とそれだけきめて、またこそこそとてんでんの穴《あな》の中に別《わか》れて帰《かえ》っていきました。

     三

 すると猫《ねこ》の方《ほう》でももうさっそくに、きのうねずみが和尚《おしょう》さんの所《ところ》へ頼《たの》みに言《い》ったことを聞《き》きつけて、「これはすてておかれない。」というので、町《まち》はずれの原《はら》に大
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