思《おも》いをしたあとでは、さてなかなかその決心《けっしん》もつきませんでした。
 そこでいちばんおしまいに、中でもふんべつのありそうな頭《あたま》の白いねずみが立《た》ち上《あ》がりました。そして落《お》ちついた調子《ちょうし》で、
「まあ何《なに》かというよりも、もう一|度《ど》人間《にんげん》に頼《たの》んで、猫《ねこ》をつないでもらうことにしたらいいだろう。」
 と言《い》いました。
 するとみんなが声《こえ》を合《あ》わせて、
「そうだ。そうだ。それに限《かぎ》る。」
 と言《い》いました。
 そこで議長《ぎちょう》のごま塩《しお》ねずみが仲間《なかま》からえらばれて、ここのお寺《てら》の和尚《おしょう》さんの所《ところ》へ行って、もう一|度《ど》猫《ねこ》に綱《つな》をつけてもらうように頼《たの》みに行く役《やく》を引《ひ》き受《う》けることになりました。ごま塩《しお》ねずみはさっそく本堂《ほんどう》へ上《あ》がって、和尚《おしょう》さんのお居間《いま》までそっとしのんでいって、
「和尚《おしょう》さま、和尚《おしょう》さま、お願《ねが》いでございます。」
 と言《い》いました。
 和尚《おしょう》さんはおどろいて、目をさまして、
「おお、だれかと思《おも》ったらねずみか。その願《ねが》いというのは何《なん》だな。」
「はい、和尚《おしょう》さまも御存《ごぞん》じのとおり、このごろお上《かみ》のお言《い》いつけで、都《みやこ》の猫《ねこ》が残《のこ》らず放《はな》し飼《が》いになりましたので、罪《つみ》のないわたくしどもの仲間《なかま》で、毎日《まいにち》、毎晩《まいばん》、猫《ねこ》の鋭《するど》い爪《つま》さきにかかって命《いのち》を落《お》とすものが、どのくらいありますかわかりません。もう一|日《にち》食《た》べ物《もの》の無《な》い穴《あな》の中に引《ひ》っ込《こ》んだまま、おなかをへらして死《し》ぬか、外《そと》に出て猫《ねこ》に食《く》われるか、ほかにどうしようもございません。和尚《おしょう》さま、どうかおじひにもう一|度《ど》猫《ねこ》をうちの中につなぐようにお上《かみ》へお願《ねが》い申《もう》し上《あ》げて下《くだ》さいまし。今日《きょう》はそのお願《ねが》いに上《あ》がったのでございます。」
 とねずみは言《い》って、殊勝《しゅしょう
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