だいどころ》の隅《すみ》に食《た》べ物《もの》をあさりに出ると、暗《くら》やみに目が光《ひか》っていて、どんな目にあうか分《わ》からなくなりました。
二
「これではとてもやりきれない。かつえ死《じに》に死《し》ぬほかなくなる。今《いま》のうちにどうかして猫《ねこ》をふせぐ相談《そうだん》をしなければならない。」というので、ある晩《ばん》ねずみ仲間《なかま》が残《のこ》らずお寺《てら》の本堂《ほんどう》の縁《えん》の下に集《あつ》まって、会議《かいぎ》を開《ひら》きました。
その時《とき》、中でいちばん年《とし》を取《と》ったごま塩《しお》ねずみが、一|段《だん》高《たか》い段《だん》の上につっ立《た》ち上《あ》がって、
「みなさん、じつに情《なさ》けない世《よ》の中になりました。元来《がんらい》猫《ねこ》はあわび貝《かい》の中のかつ節飯《ぶしめし》か汁《しる》かけ飯《めし》を食《た》べて生《い》きていればいいはずのものであるのに、われわれを取《と》って食《た》べるというのは何事《なにごと》でしょう。このまますてておけば、今《いま》にこの世《よ》の中にねずみの種《たね》は尽《つ》きてしまうことになるのです。いったいどうしたらいいでしょう。」
すると元気《げんき》のよさそうな一ぴきの若《わか》いねずみが立《た》ち上《あ》がって、
「かまわないから、猫《ねこ》の寝《ね》ているすきをねらって、いきなりのど笛《ぶえ》に食《く》いついてやりましょう。」
と言《い》いました。
みんなは「さんせいだ。」というような顔《かお》をしましたが、さてだれ一人《ひとり》進《すす》んで猫《ねこ》に向《む》かっていこうというものはありませんでした。
するとまた一ぴき背中《せなか》のまがったねずみがぶしょうらしく座《すわ》ったまま、のろのろした声《こえ》で、
「そんなことを言《い》っても猫《ねこ》にはかなわないよ。それよりかあきらめて、田舎《いなか》へ行《い》って野《の》ねずみになって、気楽《きらく》に暮《く》らしたほうがましだ。」
と言《い》いました。
なるほど田舎《いなか》へ行《い》って野《の》ねずみになって、木の根《ね》やきび殻《がら》をかじって暮《く》らすのは気楽《きらく》にちがいありませんが、これまでさんざん都《みやこ》でおいしいものを食《た》べて、おもしろい
前へ
次へ
全10ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング