》きました。けれどもべつだん変《か》わったいい知恵《ちえ》も出ません。
「もうこの上|和尚《おしょう》さんに頼《たの》んでみたところで、とてもむだだから、今夜《こんや》みんなでそろって和尚《おしょう》さんの所《ところ》へ行くことはよそう。そして夜《よ》の明《あ》けないうちに、いよいよ都落《みやこお》ちをして、田舎《いなか》へ行くことにしよう。」
 だれが言《い》い出《だ》すともなく、年《とし》を取《と》ったねずみたちの間《あいだ》にはこの話《はなし》がまとまって、みんなはあわてて夜逃《よに》げのしたくにかかりました。
 するとまた元気《げんき》のいい若《わか》ねずみたちが、くやしがって、
「まあ待《ま》って下《くだ》さい。われわれはただの一|度《ど》も戦争《せんそう》らしい戦争《せんそう》をしないで、むざむざ都《みやこ》を敵《てき》に明《あ》け渡《わた》して田舎《いなか》へ逃《に》げるというのは、いかにもふがいない話《はなし》ではありませんか。それでは命《いのち》だけはぶじに助《たす》かっても、この後《のち》長《なが》く獣仲間《けものなかま》の笑《わら》われものになって、まんぞくなつきあいもできなくなります。そんなはずかしい目にあうよりも、のるか、そるか、ここでいちばん死《し》にもの狂《ぐる》いに猫《ねこ》と戦《たたか》って、うまく勝《か》てば、もうこれからは世《よ》の中に何《なに》もこわいものはない、天井裏《てんじょううら》だろうが、台所《だいどころ》だろうが、壁《かべ》の隅《すみ》だろうが、天下《てんか》はれてわれわれの領分《りょうぶん》になるし、負《ま》けたら潔《いさぎよ》くまくらを並《なら》べて死《し》ぬばかりです。」
 と言《い》って、またくやしそうにきいきい歯《は》ぎしりをしました。
 その勢《いきお》いがあんまり勇《いさ》ましかったものですから、逃《に》げ腰《ごし》になっていた外《ほか》のねずみたちも、ついうかうかつり込《こ》まれて、
「そうだ、それがいい、それがいい。」
「なあに、猫《ねこ》なんかちっともこわくないぞ。」
 とこんどは急《きゅう》に力《りき》み返《かえ》りながら、いよいよ戦争《せんそう》のしたくにとりかかりました。
 すると猫《ねこ》の方《ほう》でもすばやくそれを聞《き》きつけて、
「何《なに》を、ねずみのくせに生意気《なまいき》なや
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