ますが、日本《にほん》は、小さなやさしい国柄《くにがら》ですから、この国《くに》に住《す》みつくといっしょに、このとおり小さなやさしい獣《けもの》になったのでございます。しかし一|度《ど》ほんとうにおこって、元《もと》の虎《とら》の本性《ほんしょう》に返《かえ》りますと、どんな獣《けもの》でも恐《おそ》れません。それ故《ゆえ》こんどお上《かみ》からおふれが出て、放《はな》し飼《が》いになったのを幸《さいわ》い、さしあたりねずみどもを手《て》はじめに、人間《にんげん》にあだをする獣《けもの》を片《かた》っぱしから退治《たいじ》するつもりでいるのです。」
 と言《い》いました。
 和尚《おしょう》さんは猫《ねこ》のこうまんらしく述《の》べ立《た》てる口上《こうじょう》を、にこにこして聞《き》きながら、
「うん、うん、それはお前《まえ》の言《い》うとおりだとも。だからねずみの言《い》うことは取《と》り上《あ》げずに帰《かえ》してやったのだから、安心《あんしん》おしなさい。」
 と言《い》いました。
 そこで猫《ねこ》はすっかりとくいになって、尾《お》をふり立《た》てながら、みんなが首《くび》を長《なが》くして待《ま》っている所《ところ》へ行って、
「みなさん、大丈夫《だいじょうぶ》、和尚《おしょう》さんは承知《しょうち》してくれました。」
 と言《い》いました。
 するとみんなは口々《くちぐち》に「万歳《ばんざい》、万歳《ばんざい》。これで安心《あんしん》だ。」
 と言《い》って、手《て》をつなぎ合《あ》って、猫《ねこ》じゃ猫《ねこ》じゃを踊《おど》りました。
 するとまたこの話《はなし》を聞《き》いたねずみ仲間《なかま》では、
「猫《ねこ》のやつが和尚《おしょう》さんの所《ところ》へ頼《たの》みに行ったそうだ。」
「和尚《おしょう》さんは猫《ねこ》に、ねずみの言《い》うことは決《けっ》して取《と》り上《あ》げないと約束《やくそく》をなさったそうだ。」
「何《なん》でも猫《ねこ》は天竺《てんじく》の虎《とら》の子孫《しそん》で、人間《にんげん》のために世界中《せかいじゅう》の悪《わる》い獣《けもの》を退治《たいじ》するんだといばっていたそうだ。」
 てんでん、こんなことを口々《くちぐち》にわいわい言《い》いながら、またお寺《てら》の縁《えん》の下で会議《かいぎ》を開《ひら
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