つだ。」
「よし、残《のこ》らずかかって来《こ》い。一ぺんにみんな食《く》い殺《ころ》してやるから。」
と急《きゅう》に爪《つめ》をとぐやら、牙《きば》をこするやら、負《ま》けずに戦争《せんそう》のしたくをして、
「おもしろい。おもしろい。ねずみのやつ、早《はや》く寄《よ》せて来《く》ればいい。」
と待《ま》ちかまえていました。
四
いよいよしたくができて、勢揃《せいぞろ》いがすむと、ねずみ仲間《なかま》は、親《おや》ねずみ、子ねずみ、じじいねずみにばばあねずみ、おじさんねずみにおばさんねずみ、お婿《むこ》さんねずみにお嫁《よめ》さんねずみ、孫《まご》、ひこ、やしゃ子ねずみまで何万《なんまん》何《なん》千という仲間《なかま》が残《のこ》らずぞろぞろ、ぞろぞろ、まっ黒《くろ》になって、猫《ねこ》の陣取《じんど》っている横町《よこちょう》の原《はら》に向《む》かって攻《せ》めていきました。
猫《ねこ》の方《ほう》も、「そら来《き》た。」というなり、三毛猫《みけねこ》、虎猫《とらねこ》、黒猫《くろねこ》、白猫《しろねこ》、ぶち猫《ねこ》、きじ猫《ねこ》、どろぼう猫《ねこ》やのら猫《ねこ》まで、これも一門《いちもん》残《のこ》らず牙《きば》をとぎそろえて向《む》かっていきました。
両方《りょうほう》西《にし》と東《ひがし》に分《わ》かれてにらみ合《あ》って、今《いま》にも飛《と》びかかろう、食《く》いかかろうと、すきをねらっているところへ、ひょっこりお寺《てら》の和尚《おしょう》さんが、話《はなし》を聞《き》いて仲裁《ちゅうさい》にやって来《き》ました。和尚《おしょう》さんは猫《ねこ》の陣《じん》とねずみの陣《じん》のまん中《なか》につっ立《た》って、両手《りょうて》をひろげて、
「まあ、まあ、待《ま》て。」
と言《い》いますと、猛《たけ》りきっていた猫《ねこ》の軍《ぐん》もねずみの軍《ぐん》も、おとなしくなって、和尚《おしょう》さんの顔《かお》を見《み》ました。
和尚《おしょう》さんはまずねずみの軍《ぐん》に向《む》かって、
「これ、これ、お前《まえ》たちがいくら死《し》にもの狂《ぐる》いになったところで、猫《ねこ》にかなうものではない。一ぴき残《のこ》らず食《く》い殺《ころ》されて、この野原《のはら》の土《つち》になってしまう。わたしはそれを
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