に身《み》を固《かた》めて、弓矢《ゆみや》をもって御所《ごしょ》のお庭《にわ》のまん中に立《た》って見張《みは》りをしていました。真夜中《まよなか》すぎになって、いつものとおり天子《てんし》さまがおこりをお病《や》みになる刻限《こくげん》になりました。義家《よしいえ》はまっくらなお庭《にわ》の上につっ立《た》って、魔物《まもの》の来《く》ると思《おも》われる方角《ほうがく》をきっとにらみつけながら、弓絃《ゆみづる》をぴん、ぴん、ぴんと三|度《ど》まで鳴《な》らしました。そして、
「八幡太郎《はちまんたろう》義家《よしいえ》。」
 と大きな声《こえ》で名《な》のりました。するとそれなりすっと魔物《まもの》は消《き》えて、天子《てんし》さまの御病気《ごびょうき》はきれいになおってしまいました。
 またある時《とき》野原《のはら》へ狩《かり》に出かけますと、向《む》こうからきつねが一|匹《ぴき》出て来《き》ました。義家《よしいえ》はそれを見《み》て、あんな小《ちい》さなけものに矢《や》をあてるのもむごたらしい、おどしてやろうと思《おも》って、弓《ゆみ》に矢《や》をつがえて、わざときつねの目の
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