羽衣《はごろも》をかかえていた手を、うしろに引《ひ》っ込《こ》めてしまいました。
「お気《き》の毒《どく》ですが、これは返《かえ》すわけにはいきません。これはわたしの大事《だいじ》な宝《たから》です。」
といいました。
いったん気《き》の毒《どく》になって、羽衣《はごろも》を返《かえ》そうと思《おも》った伊香刀美《いかとみ》は、急《きゅう》にまたこのきれいな少女《おとめ》が好《す》きになって、このまま別《わか》れてしまうのが惜《お》しくなったのでした。
「まあ、そんなことをおっしゃらずに、返《かえ》して下《くだ》さいまし。それが無《な》いと、わたしは天《てん》へ帰《かえ》ることができません。」
と少女《おとめ》はいって、はらはらと涙《なみだ》をながしました。
「でもわたしはあなたを天《てん》へ帰《かえ》したくないのです。それよりもわたしの所《ところ》へおいでなさい。いっしょに楽《たの》しく暮《く》らしましょう。」
と伊香刀美《いかとみ》はいいました。そしてずんずん羽衣《はごろも》をかかえたまま向《む》こうへ歩《ある》いていきました。少女《おとめ》はしかたがないので、悲《かな》し
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