し》の下に降《お》りて、波《なみ》を切《き》って湖《みずうみ》の中に入《はい》って行きました。藤太《とうだ》もその後《あと》からついて行きました。しばらくすると向《む》こうにりっぱな門《もん》が見《み》えて、その奥《おく》に金銀《きんぎん》でふいた御殿《ごてん》の屋根《やね》があらわれました。るりをしきつめた道《みち》をとおって、さんごで飾《かざ》った玄関《げんかん》を入《はい》って、めのうで堅《かた》めた廊下《ろうか》を伝《つた》わって、奥《おく》の奥《おく》の大広間《おおひろま》へとおりました。そこのすいしょうをはりつめた欄干《らんかん》から、湖水《こすい》を透《す》かしてすぐ向《む》こうに三上山《みかみやま》がそびえていました。
「むかでの出ますにはまだ間《ま》がございます。」
と龍王《りゅうおう》はいって、藤太《とうだ》をくつろがせ、いろいろとごちそうをしているうちに時刻《じこく》がたって、だんだん暗《くら》くなって来《き》ました。
二
すると暗《くら》くなるに従《したが》って、龍王《りゅうおう》の顔《かお》が青《あお》くなって来《き》ました。
「ああ、もうそろそろむかでがやってまいります。」
と龍王《りゅうおう》は息《いき》をはずませながらささやきました。藤太《とうだ》は弓矢《ゆみや》を持《も》って立《た》ち上《あ》がりました。
やがてむこうの空《そら》がかっと燃《も》えるように赤《あか》くなりました。すると間《ま》もなく比良《ひら》の峰《みね》から三上山《みかみやま》にかけて何《なん》千という火《ひ》の玉《たま》が現《あらわ》れ、それがたい松《まつ》行列《ぎょうれつ》のように、だんだんとこちらに向《む》かって進《すす》んで来《き》ました。
「あれあれ、あのとおりむかでがやってまいります。どうぞはやく退治《たいじ》て下《くだ》さいまし。」
と龍王《りゅうおう》はぶるぶるふるえながらいいました。しかし藤太《とうだ》はゆったりした声《こえ》で、
「きっと退治《たいじ》てあげるから、安心《あんしん》しておいでなさい。」
といいながら、欄干《らんかん》に片足《かたあし》をかけて一の矢《や》をつがえて、一ぱいに引《ひ》きしぼって、切《き》って放《はな》しました。矢《や》はまさしくむかでのみけんに当《あ》たりました。けれどもかんと鉄板《てつい
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