》というのは。」
「それはこうでございます。いったいわたくしはもう二千|年《ねん》の昔《むかし》からこの湖《みずうみ》の中に住《す》んで、何不足《なにふそく》なく暮《く》らしていたものでございます。それがいつごろからかあのそれ、あちらに見《み》えます三上山《みかみやま》に、大きなむかでが来《き》て住《す》むようになりました。それがこのごろになって、この湖《みずうみ》を時々《ときどき》荒《あ》らしにまいりまして、そのたんびにわたくしどもの子供《こども》を一人《ひとり》ずつさらって行くのです。どうかして敵《かたき》を打《う》ちたいと思《おも》いますが、何分《なにぶん》向《む》こうは三上山《みかみやま》を七巻《ななま》き半《はん》も巻《ま》くという大《おお》むかでのことでございますから、よし向《む》かって行っても勝《か》つ見込《みこ》みがございません。そうかといって、このまま捨《す》てておけば子供《こども》は残《のこ》らず、わたくしまでもむかでに取《と》られて、この湖《みずうみ》の中に生《い》きものの種《たね》が尽《つ》きてしまうでしょう。こうなると、もうなんでも強《つよ》い人に加勢《かせい》を頼《たの》むよりしかたがないと思《おも》いまして、この間《あいだ》から橋《はし》の上に寝《ね》て待《ま》っていたのでございます。けれどもみんなわたくしの姿《すがた》を見《み》ただけで逃《に》げて行ってしまうのでございます。これでは世《よ》の中にほんとうに強《つよ》い人というものはないものかと、じつはがっかりしておりました。それがただ今《いま》あなたにお目にかかることができて、こんなにうれしいことはございません。どうかわたくしたちのために、あのむかでを退治《たいじ》しては頂《いただ》けますまいか。」
こういって龍王《りゅうおう》はていねいに頭《あたま》を下《さ》げました。藤太《とうだ》はやさしい、情《なさ》けぶかい武士《ぶし》でしたから、
「それはどうも気《き》の毒《どく》なことだ。ではさっそく行って、そのむかでを退治《たいじ》してあげよう。」
といいました。龍王《りゅうおう》はたいそうよろこんで、
「では御案内《ごあんない》をいたしましょう。どうかごくろうでも、湖《みずうみ》の底《そこ》の私《わたくし》の住《す》まいまでお越《こ》し下《くだ》さいまし。」
こういいながら橋《は
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