》はみごとに大穴《おおあな》があいて、たくさんの兵《へい》を乗《の》せたまま、ぶくぶくと海《うみ》の中に沈《しず》んでしまいました。敵《てき》はあわてて海《うみ》の中でしどろもどろに乱《みだ》れて騒《さわ》ぎはじめました。
為朝《ためとも》はつづいて二の矢《や》をつがえようとしましたが、船《ふね》を沈《しず》められた大《おお》ぜいの敵兵《てきへい》が、おぼれまいとして水の中であっぷ、あっぷもがいている様子《ようす》を見《み》ると、ふとかわいそうになって、
「かれらはいいつけられて為朝《ためとも》を討《う》ちに来《き》たというだけで、もとよりおれにはあだも恨《うら》みもない者《もの》どもだ。そんなものの命《いのち》をこの上むだにとるには忍《しの》びない。それにいったんこうして敵《てき》を退《しりぞ》けたところで、朝敵《ちょうてき》になっていつまでも手向《てむ》かいがしつづけられるものではない。考《かんが》えて見《み》ると、おれもいろいろおもしろいことをして来《き》たから、もう死《し》んでも惜《お》しくはない。おれがここで一人《ひとり》死《し》んでやれば、大《おお》ぜいの命《いのち》が助
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