形《かたち》が見《み》えました。
為朝《ためとも》はだんだんそばへよってみますと、岸《きし》は岩《いわ》がけわしい上に波《なみ》が高《たか》いので、船《ふね》が着《つ》けられません。さんざん回《まわ》りをこぎ回《まわ》りますと、やっと平《たい》らな州《す》のようなところがあって、島《しま》の中から小《ちい》さな川がそこに流《なが》れ出《だ》していました。
為朝《ためとも》はそこから上《あ》がって、ずんずん奥《おく》へ入《はい》って見《み》ますと、一めん、岩《いわ》でたたんだような土地《とち》で、田《た》もなければ畠《はた》もありません。ところどころに見《み》なれない草木《くさき》が生《は》えて、珍《めずら》しい匂《にお》いの花《はな》が咲《さ》いていました。
いくら歩《ある》いても家《いえ》らしいものも見《み》えませんでしたが、そのうちいつどこから出て来《き》たか、一|丈《じょう》も背《せい》の高《たか》さのある大男《おおおとこ》がのそのそと出て来《き》ました。まっくろな体《からだ》に毛《け》がもじゃもじゃ生《は》えて、頭《あたま》の髪《かみ》の毛《け》はまっ赤《か》で、針《はり》を植《う》えたようでした。
為朝《ためとも》は不思議《ふしぎ》に思《おも》って、
「この島《しま》は何《なん》という島《しま》だ。」
と大男《おおおとこ》の一人《ひとり》に聞《き》きますと、
「鬼《おに》ガ島《しま》といいます。」
とこたえました。
為朝《ためとも》は、いよいよ珍《めずら》しく思《おも》って、
「じゃあお前《まえ》たちは鬼《おに》か。それとも先祖《せんぞ》が鬼《おに》だったのか。」
とたずねました。
「そうです。わたくしどもは鬼《おに》の子孫《しそん》です。」
「鬼《おに》ガ島《しま》なら、宝《たから》があるだろう。」
「むかしほんとうの鬼《おに》だった時分《じぶん》には、かくれみのだの、かくれがさだの、水の上を浮《う》く靴《くつ》だのというものがあったのですが、今《いま》では半分《はんぶん》人間《にんげん》になってしまって、そういう宝《たから》もいつの間《ま》にかなくなってしまいました。」
「よその島《しま》へ渡《わた》ったことはないか。」
「むかしは船《ふね》がなくっても、ずんずん、よその島《しま》へ行って、人をとったりしたこともありましたが、今《いま》
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