では船《ふね》もないし、たまによそから風《かぜ》にふきつけられてくる船《ふね》があっても、波《なみ》が荒《あら》いので、岸《きし》に上《あ》がろうとすると岩《いわ》にぶつかって砕《くだ》けてしまうのです。」
「何《なに》を食《た》べて生《い》きている。」
「魚《さかな》と鳥《とり》を食《た》べます。魚《さかな》はひとりでに磯《いそ》に上《あ》がって来《き》ます。穴《あな》を掘《ほ》ってその中にかくれて、鳥《とり》の声《こえ》をまねていると、鳥《とり》はだまされて穴《あな》の中にとび込《こ》んで来《き》ます。それをとって食《た》べるのです。」
こういっている時《とき》に、ひよどりのような鳥《とり》がたくさん空《そら》の上をかけって来《き》ました。為朝《ためとも》はもって来《き》た弓《ゆみ》に矢《や》をつがえて、鳥《とり》に向《む》かって射《い》かけますと、すぐ五六|羽《ぱ》ばたばたと重《かさ》なり合《あ》って落《お》ちて来《き》ました。
島《しま》の大男《おおおとこ》は弓矢《ゆみや》を見《み》たのは初《はじ》めてなので、目をまるくして見《み》ていましたが、空《そら》を飛《と》んでいるものが、射落《いお》とされたのを見《み》て、舌《した》をまいておじおそれました。そして為朝《ためとも》を神《かみ》さまのように敬《うやま》いました。
為朝《ためとも》は鬼《おに》ガ島《しま》を平《たい》らげたついでに、ずんずん船《ふね》をこぎすすめて、やがて伊豆《いず》の島々《しまじま》を残《のこ》らず自分《じぶん》の領分《りょうぶん》にしてしまいました。そして鬼《おに》ガ島《しま》から大男《おおおとこ》を一人《ひとり》つれて、大島《おおしま》へ帰《かえ》って来《き》ました。
大島《おおしま》の者《もの》は、為朝《ためとも》が小船《こぶね》に乗《の》って出たなり未《いま》だに帰《かえ》って来《こ》ないので、どうしたのかと思《おも》っていますと、ある日《ひ》恐《おそ》ろしい鬼《おに》をつれてひょっこり帰《かえ》って来《き》たので、みんなびっくりしてしまいました。
六
こうして為朝《ためとも》は十|年《ねん》たたないうちに、たくさんの島《しま》を討《う》ち従《したが》えて、海《うみ》の王《おう》さまのような勢《いきお》いになりました。すると為朝《ためとも》のために大島《
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