ない。なんとかして助《たす》けてやったらどうか。」
とおっしゃいました。そこで為朝《ためとも》の死罪《しざい》を許《ゆる》して、その代《かわ》り強《つよ》い弓《ゆみ》の引《ひ》けないように、ひじの筋《すじ》を抜《ぬ》いて伊豆《いず》の大島《おおしま》に流《なが》しました。
為朝《ためとも》は筋《すじ》を抜《ぬ》かれて弓《ゆみ》は少《すこ》し弱《よわ》くなりましたが、ひじがのびたので、前《まえ》よりもかえって長《なが》い矢《や》を射《い》ることができるようになりました。
五
為朝《ためとも》は大島《おおしま》へ渡《わた》ると、
「おれは八幡太郎《はちまんたろう》の孫《まご》だ。この島《しま》は天子《てんし》さまから頂《いただ》いたものだ。」
といって、島《しま》を討《う》ち従《したが》えてしまいました。そのうち方々《ほうぼう》にかくれていた為朝《ためとも》の家来《けらい》が、一人《ひとり》二人《ふたり》とだんだん集《あつ》まって来《き》て為朝《ためとも》につきました。
「九州《きゅうしゅう》よりはずっと小《ちい》さいが、また為朝《ためとも》の国《くに》ができた。」
こういって、為朝《ためとも》はここでも王《おう》さまのような威勢《いせい》になりました。
ある時《とき》為朝《ためとも》は海《うみ》ばたに出て、はるか沖《おき》の方《ほう》をながめていますと、白《しろ》いさぎと青《あお》いさぎが二|羽《わ》つれ立《だ》って海《うみ》の上を飛《と》んで行きます。為朝《ためとも》はそれをながめて、
「わしかなんぞなら知《し》らないが、さぎのような羽《はね》の弱《よわ》いものでは、せいぜい一|里《り》か二|里《り》ぐらいしか飛《と》ぶ力《ちから》はないはずだ。それがああして行くところを見《み》ると、きっとここからそう遠《とお》くないところに島《しま》があるにちがいない。」
といって、そのまま小船《こぶね》にとび乗《の》って、さぎの飛《と》んで行った方角《ほうがく》に向《む》かってどこまでもこいで行きました。
その日一|日《にち》こいで、海《うみ》の上で日がくれましたが、島《しま》らしいものは見《み》つかりません。夜《よる》はちょうど月のいいのを幸《さいわ》いに、またどこまでもこいで行きますと、明《あ》け方《がた》になって、やっと島《しま》らしいものの
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