なが》はまさかと思《おも》った夜討《よう》ちがはじまったものですから、今更《いまさら》のようにあわてて、為朝《ためとも》のいうことを聞《き》かなかったことを後悔《こうかい》しました。そして為朝《ためとも》の御機嫌《ごきげん》をとるつもりで、急《きゅう》に新院《しんいん》に願《ねが》って為朝《ためとも》を蔵人《くらんど》という重《おも》い役《やく》にとり立《た》てようといいました。すると為朝《ためとも》はあざ笑《わら》って、
「敵《てき》が攻《せ》めて来《き》たというのに、よけいなことをする手間《てま》で、なぜ早《はや》く敵《てき》を防《ふせ》ぐ用意《ようい》をしないのです。蔵人《くらんど》でもなんでもかまいません。わたしはあくまで鎮西八郎《ちんぜいはちろう》です。」
とこうりっぱにいいきって、すぐ戦場《せんじょう》に向《む》かって行きました。
為朝《ためとも》が例《れい》の二十八|騎《き》をつれて西《にし》の門《もん》を守《まも》っておりますと、そこへ清盛《きよもり》と重盛《しげもり》を大将《たいしょう》にして平家《へいけ》の軍勢《ぐんぜい》がおしよせて来《き》ました。
為朝《ためとも》はそれを見《み》て、
「弱虫《よわむし》の平家《へいけ》め、おどかして追《お》いはらってやれ。」
と思《おも》いまして、敵《てき》がろくろく近《ちか》づいて来《こ》ないうちに、弓《ゆみ》に矢《や》をつがえて敵《てき》の先手《さきて》に向《む》かって射《い》かけますと、この矢《や》が前《まえ》に立《た》って進《すす》んで来《き》た伊藤《いとう》六の胸板《むないた》をみごとに射《い》ぬいて、つきぬけた矢《や》が後《うし》ろにいた伊藤《いとう》五の鎧《よろい》の袖《そで》に立《た》ちました。
伊藤《いとう》五がおどろいて、その矢《や》をぬいて清盛《きよもり》の所《ところ》へもって行って見《み》せますと、並《な》みの二|倍《ばい》もある太《ふと》い箆《の》の先《さき》に大《おお》のみのようなやじりがついていました。清盛《きよもり》はそれを見《み》たばかりでふるえ上《あ》がって、
「なんでもこの門《もん》を破《やぶ》れという仰《おお》せをうけたわけでもないのだから、そんならんぼう者《もの》のいない外《ほか》の門《もん》に向《む》かうことにしよう。」
と勝手《かって》なことをいいなが
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