ら、どんどん逃《に》げ出《だ》して行きました。
するとこんどはにいさんの義朝《よしとも》が平家《へいけ》の代《か》わりに向《む》かって来《き》ました。にいさんはにいさんだけの威光《いこう》で、いきなりしかりつけて為朝《ためとも》を恐《おそ》れ入《い》らしてやろうと思《おも》ったと見《み》えて、義朝《よしとも》は為朝《ためとも》の顔《かお》の見《み》えるところまで来《き》ますと、大きな声《こえ》で、
「そこにいるのは八郎《はちろう》だな。にいさんに向《む》かって弓《ゆみ》をひくやつがあるか。はやく弓矢《ゆみや》を投《な》げ出《だ》して降参《こうさん》しないか。」
といいました。
すると為朝《ためとも》は笑《わら》って、
「にいさんに弓《ゆみ》をひくのがわるければ、おとうさんに向《む》かって弓《ゆみ》をひくあなたはもっとわるいでしょう。」
とやり込《こ》めました。
これで義朝《よしとも》もへいこうして、だまってしまいました。そしてくやしまぎれに、はげしく味方《みかた》にさしずをして、めちゃめちゃに矢《や》を射《い》かけさせました。
為朝《ためとも》はこの様子《ようす》をこちらから見《み》て、大将《たいしょう》の義朝《よしとも》をさえ射落《いお》とせば、一|度《ど》に勝負《しょうぶ》がついてしまうのだと考《かんが》えました。そこで弓《ゆみ》に矢《や》をつがえて、義朝《よしとも》の方《ほう》にねらいをつけました。
「あの仰《あお》むけている首筋《くびすじ》を射《い》てやろうか。だいぶ厚《あつ》い鎧《よろい》を着《き》ているが、あの上から胸板《むないた》を射《い》とおすぐらいさしてむずかしくもなさそうだ。」
こう為朝《ためとも》は思《おも》いながら、すぐ矢《や》を放《はな》そうとしましたが、ふと、
「いや待《ま》て。いくら敵《てき》でもにいさんはにいさんだ。それにこうして父子《おやこ》わかれわかれになっていても、おとうさんとにいさんの間《あいだ》に内《ない》しょの約束《やくそく》があって、どちらが負《ま》けてもお互《たが》いに助《たす》け合《あ》うことになっているのかもしれない。」
と思《おも》い返《かえ》して、わざとねらいをはずして、義朝《よしとも》の兜《かぶと》に射《い》あてました。すると矢《や》は兜《かぶと》の星《ほし》を射《い》けずって、その後《うし》
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