ょうぶ》はついてしまいましょう。御安心《ごあんしん》下《くだ》さいまし。」
といいました。
為朝《ためとも》がこうりっぱに言《い》いきりますと、新院《しんいん》はじめおそばの人《ひと》たちは、「なるほど。」と思《おも》って、よけい為朝《ためとも》をたのもしく思《おも》いました。するとその中で一人《ひとり》左大臣《さだいじん》の頼長《よりなが》があざ笑《わら》って、
「ばかなことをいえ。夜討《よう》ちなどということは、お前《まえ》などの仲間《なかま》の二十|騎《き》か三十|騎《き》でやるけんか同様《どうよう》の小《こ》ぜりあいならば知《し》らぬこと、恐《おそ》れ多《おお》くも天皇《てんのう》と上皇《じょうこう》のお争《あらそ》いから、源氏《げんじ》と平家《へいけ》が敵味方《てきみかた》に分《わ》かれて力《ちから》くらべをしようという大《おお》いくさだ。そんな卑怯《ひきょう》な駆《か》け引《ひ》きはできぬ。やはり夜《よ》の明《あ》けるのを待《ま》って、堂々《どうどう》と勝負《しょうぶ》を争《あらそ》う外《ほか》はない。」
といって、せっかくの為朝《ためとも》のはかりごとをとり上《あ》げようともしませんでした。
為朝《ためとも》は、おもしろく思《おも》いませんでしたけれど、むりに争《あらそ》ってもむだだと思《おも》いましたから、そのままおじぎをして退《しりぞ》きました。そして心《こころ》の中では、
「何《なに》もしらない公卿《くげ》のくせによけいな差《さ》し出口《でぐち》をするはいいが、今《いま》にあべこべに敵《てき》から夜討《よう》ちをしかけられて、その時《とき》にあわててもどうにもなるまい。こんなふうでは、この戦《いくさ》にはとても勝《か》てる見込《みこ》みはない。まあ、働《はたら》けるだけ働《はたら》いて、あとはいさぎよく討《う》ち死《じ》にをしよう。」
と思《おも》いました。
こう覚悟《かくご》をきめると、それからはもう為朝《ためとも》はぴったり黙《だま》り込《こ》んだまま、しずかに敵《てき》の寄《よ》せてくるのを待《ま》っていました。
すると案《あん》の定《じょう》、その晩《ばん》夜中《よなか》近《ちか》くなって、敵《てき》は義朝《よしとも》と清盛《きよもり》を大将《たいしょう》にして、どんどん夜討《よう》ちをしかけて来《き》ました。
頼長《より
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