この山の中に来《き》たのでございます。おとうさまやおかあさまや、ばあやたちはどうしているでしょう。その人たちにも二|度《ど》と会《あ》うこともできない身《み》の上《うえ》になりました。」
 といいました。そして、
「あなた方《がた》はいったいどうしてこんなところへいらしったのです。ここは鬼《おに》の岩屋《いわや》で、これまでよそから人間《にんげん》の来《き》たことはありません。」
 といいました。頼光《らいこう》は、そこで、
「いや、わたしたちは天子《てんし》さまのおいいつけで、鬼《おに》を退治《たいじ》に来《き》たのだから、安心《あんしん》しておいでなさい。」
 といいきかせますと、娘《むすめ》はたいそうよろこんで、
「それではこの川をまたずんずん上《のぼ》っておいでになりますと、鉄《てつ》の門《もん》があって、門《もん》の両脇《りょうわき》に黒鬼《くろおに》と赤鬼《あかおに》が番《ばん》をしています。門《もん》の中にはるりの御殿《ごてん》があって、その庭《にわ》には春《はる》と夏《なつ》と秋《あき》と冬《ふゆ》の景色《けしき》がいっぱいにつくってあります。しゅてんどうじはその御殿《
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