お》をじっと見返《みかえ》して、ていねいにあいさつをしました。童子《どうじ》はその時《とき》おうへいな調子《ちょうし》で、
「きさまたちはいったいどこから来《き》た。よくこんな山奥《やまおく》まで上《あ》がって来《き》たものだな。」
といいました。
すると頼光《らいこう》が、
「それはわたくしども山伏《やまぶし》のならいで、道《みち》のない山奥《やまおく》までも踏《ふ》み分《わ》けて修行《しゅぎょう》をいたします。わたくしどもはいったい出羽《でわ》の羽黒山《はぐろさん》から出ました山伏《やまぶし》でございますが、この間《あいだ》は大和《やまと》の大峰《おおみね》におこもりをしまして、それから都《みやこ》へ出ようとする途中《とちゅう》道《みち》に迷《まよ》って、このとおりこちらの御厄介《ごやっかい》になることになりました。」
といいました。酒呑童子《しゅてんどうじ》はそう聞《き》いて、すっかり安心《あんしん》しました。
「それは気《き》の毒《どく》なことだ。まあ、ゆっくり休《やす》んで、酒《さけ》でも飲《の》んで行くがいい。」
こういうと頼光《らいこう》も、
「それはごちそうです。失礼《しつれい》ではございますが、わたくしどももちょうど酒《さけ》を持《も》ってまいりましたから、この方《ほう》も飲《の》んで頂《いただ》きたいものです。」
といいました。
「それはありがたい。それでは酒盛《さかも》りをはじめようか。」
童子《どうじ》はこういって、大《おお》ぜいの腰元《こしもと》や家来《けらい》にいいつけて、酒《さけ》さかなを運《はこ》ばせました。酒呑童子《しゅてんどうじ》はそれでもまだ油断《ゆだん》なく、六|人《にん》の山伏《やまぶし》を試《ため》してみるつもりで、
「それではまず客人《きゃくじん》たちに、わたしの勧《すす》める酒《さけ》を飲《の》んでもらって、それからこんどはわたしがごちそうになることにしよう。」
といって、酒呑童子《しゅてんどうじ》は大《おお》きな杯《さかずき》になみなみ人間《にんげん》の生《い》き血《ち》を絞《しぼ》って入《い》れて、
「さあ、この酒《さけ》を飲《の》め。」
といって、頼光《らいこう》にさしました。頼光《らいこう》は困《こま》った顔《かお》もしないで、一息《ひといき》に飲《の》みほしてしまいました。それから保昌《ほうしょう》、次《つぎ》は綱《つな》と、かわるがわる次《つぎ》から次《つぎ》へ杯《さかずき》をまわして、おしまいに酒呑童子《しゅてんどうじ》に返《かえ》しました。
「酒《さけ》ばかりではさびしい。さかなも食《く》え。」
酒呑童子《しゅてんどうじ》はこういって、こんどは生《な》ま生《な》ましい人間《にんげん》の肉《にく》を出《だ》しました。頼光《らいこう》たちはその肉《にく》を切《き》って、さもうまそうに舌鼓《したつづみ》をうちながら食《た》べました。酒呑童子《しゅてんどうじ》は頼光《らいこう》たちが悪《わる》びれもしないで、生《い》き血《ち》のお酒《さけ》でも、生《な》ま肉《にく》のおさかなでも、引《ひ》き受《う》けてくれたので、見《み》るから上機嫌《じょうきげん》になって、
「こんどはお前《まえ》たちの持《も》って来《き》た酒《さけ》のごちそうになろうじゃないか。」
といいました。頼光《らいこう》はさっそく綱《つな》にいいつけて、さっき神様《かみさま》から頂《いただ》いた「神《かみ》の方便《ほうべん》鬼《おに》の毒酒《どくざけ》」を出《だ》して、酒呑童子《しゅてんどうじ》の大杯《おおさかずき》になみなみとつぎました。酒呑童子《しゅてんどうじ》は一息《ひといき》に飲《の》みほして、これもさもうまそうに舌鼓《したつづみ》をうちながら、
「これはうまい酒《さけ》だ。もう一ぱいくれ。」
と杯《さかずき》を出《だ》しました。頼光《らいこう》は心《こころ》の中ではしめたと思《おも》いながら、うわべは何気《なにげ》ない顔《かお》をして、
「どうもお口にかなって満足《まんぞく》です。それではお酒《さけ》だけではおさびしいでしょうから、こんどはおさかなをいたしましょう。」
といって、立《た》ち上《あ》がって、扇《おうぎ》をつかいながら舞《ま》いを舞《ま》いました。四|天王《てんのう》は声《こえ》を合《あ》わせて拍子《ひょうし》をとりながら、節《ふし》おもしろく歌《うた》を歌《うた》いました。
それを見《み》ると、酒呑童子《しゅてんどうじ》も、手下《てした》の鬼《おに》たちも、おもしろそうに笑《わら》いながら、すすめられるままに、「神《かみ》の方便《ほうべん》鬼《おに》の毒酒《どくざけ》」をぐいぐい引《ひ》き受《う》けて、いくらでも飲《の》みました。そのうちにだんだんお酒《さけ》
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