のききめが現《あらわ》れてきて、酒呑童子《しゅてんどうじ》はじめ鬼《おに》どもは、みんなごろごろ酔《よ》い倒《たお》れて、正体《しょうたい》がなくなってしまいました。
 頼光《らいこう》たちは鬼《おに》のすっかり倒《たお》れたところを見《み》すましますと、笈《おい》の中から鎧《よろい》や兜《かぶと》を出《だ》して、しっかり着《き》こみました。そして六|人《にん》一|度《ど》に刀《かたな》をぬいて、酒呑童子《しゅてんどうじ》の寝《ね》ている座敷《ざしき》にとびこみますと、酒呑童子《しゅてんどうじ》はまるで手足を四方《しほう》から鉄《てつ》の鎖《くさり》でかたくつながれているように、いくじなく寝込《ねこ》んでいました。頼光《らいこう》はすぐ刀《かたな》をふり上《あ》げて酒呑童子《しゅてんどうじ》の大きな首《くび》をごろりと打《う》ち落《お》としてしまいました。酒呑童子《しゅてんどうじ》の手足はそのまま動《うご》けなくなりましたが、切《き》られた首《くび》だけは目をさまして、すっと空《そら》に飛《と》び上《あ》がりました。そしていきなり頼光《らいこう》をめがけてかみついて来《こ》ようとしました。けれども兜《かぶと》の前立《まえだて》のきらきらする星《ほし》の光《ひかり》におじけて、ただ口から火を吹《ふ》くばかりで、そばへ近寄《ちかよ》ることができません。そのうち頼光《らいこう》に二三|度《ど》つづけて切《き》りつけられて、首《くび》はどんと下におちてしまいました。
 手下《てした》の鬼《おに》どもは、しばらくの間《あいだ》はてんでんに鉄棒《てつぼう》をふるって、打《う》ちかかってきましたが、六|人《にん》の武士《ぶし》に片端《かたはし》から切《き》り立《た》てられて、みんな殺《ころ》されてしまいました。
 鬼《おに》が大《おお》ぜいつかまえておいた娘《むすめ》たちの中には、池田《いけだ》の中納言《ちゅうなごん》のお姫《ひめ》さまも交《ま》じっていました。頼光《らいこう》は鬼《おに》のかすめた宝物《たからもの》といっしょに娘《むすめ》たちをつれて、めでたく都《みやこ》へ帰《かえ》りました。天子《てんし》さまはたいそうおよろこびになって、頼光《らいこう》はじめ保昌《ほうしょう》や四|天王《てんのう》たちにたくさん御褒美《ごほうび》を下《くだ》さいました。そしてそれからは鬼《おに》が出て人をさらう心配《しんぱい》がなくなりましたから、京都《きょうと》の人たちはたいそうよろこんで、いつまでも頼光《らいこう》や四|天王《てんのう》たちの手柄《てがら》を語《かた》り伝《つた》えました。



底本:「日本の英雄伝説」講談社学術文庫、講談社
   1983(昭和58)年6月10日第1刷発行
※「千丈《せんじょう》ガ岳《たけ》」の「ガ」は底本では小書き。
入力:鈴木厚司
校正:大久保ゆう
2003年9月29日作成
青空文庫作成ファイル:
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