しょう》頼光《らいこう》と、それについております四|天王《てんのう》の侍《さむらい》どもにかぎります。」
 と申《もう》し上《あ》げました。天子《てんし》さまは、
「なるほど頼光《らいこう》ならば、必《かなら》ず大江山《おおえやま》の鬼《おに》を退治《たいじ》して来《く》るに相違《そうい》ない。」
 とおっしゃって、頼光《らいこう》をお呼《よ》び出《だ》しになりました。
 頼光《らいこう》は天子《てんし》さまのおいいつけを伺《うかが》いますと、すぐかしこまってうちへ帰《かえ》りましたが、なにしろ相手《あいて》は人間《にんげん》と違《ちが》って、変化自在《へんげじざい》な鬼《おに》のことですから、大《おお》ぜい武士《ぶし》を連《つ》れて行って、力《ちから》ずくで勝《か》とうとしても、鬼《おに》にうまく逃《に》げられてしまってはそれまでです。なんでもこれは人数《にんずう》は少《すく》なくともよりぬきの強《つよ》い武士《ぶし》ばかりで出《で》かけて行って、力《ちから》ずくよりは智恵《ちえ》で勝《か》つ工夫《くふう》をしなければなりません。こう思《おも》ったので、頼光《らいこう》は家来《けらい》の四|天王《てんのう》の外《ほか》には、一ばん仲《なか》のいい友達《ともだち》の平井保昌《ひらいのほうしょう》だけをつれて行くことにしました。世間《せけん》ではこの保昌《ほうしょう》のことを四|天王《てんのう》に並《なら》べて、一人武者《ひとりむしゃ》といっていました。
 それからこれは人間《にんげん》の力《ちから》だけには及《およ》ばない、神様《かみさま》のお力《ちから》をもお借《か》りしなければならないというので、頼光《らいこう》と保昌《ほうしょう》は男山《おとこやま》の八幡宮《はちまんぐう》に、綱《つな》と公時《きんとき》は住吉《すみよし》の明神《みょうじん》に、貞光《さだみつ》と季武《すえたけ》は熊野《くまの》の権現《ごんげん》におまいりをして、めでたい武運《ぶうん》を祈《いの》りました。
 さていよいよ大江山《おおえやま》へ向《む》けて立《た》つことにきめると、頼光《らいこう》はじめ六|人《にん》の武士《ぶし》はいずれも山伏《やまぶし》の姿《すがた》になって、頭《あたま》に兜巾《ときん》をかぶり、篠掛《すずかけ》を着《き》ました。そして鎧《よろい》や兜《かぶと》は笈《おい》
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