こころ》の中で一生懸命《いっしょうけんめい》仏《ほとけ》さまにお祈《いの》りをしながら、「どうしたら逃《に》げられるか、せっかく逃《に》げ出《だ》しても、つかまって殺《ころ》されれば同《おな》じことだし、つかまらないまでも、この深《ふか》い山の中では、道《みち》に迷《まよ》って行《ゆ》き倒《だお》れになるばかりだ。」と思《おも》って、ぐずぐずしていますと、あるじの鬼《おに》がふいと奥《おく》から声《こえ》をかけて、
「裏《うら》の田《た》に水《みず》はあるか。」
 と聞《き》きました。坊《ぼう》さんはこわごわ立《た》って、戸《と》をあけて、裏手《うらて》をながめますと、そこに深《ふか》い田《た》が出来《でき》ていて、水《みず》がいっぱいあふれていました。「あの深《ふか》い水《みず》たまりの中に、自分《じぶん》たちをつき落《お》として殺《ころ》すつもりではないか。」と気味悪《きみわる》く思《おも》いながら、坊《ぼう》さんは戻《もど》って来《き》て、
「田《た》に水《みず》はございます。」
 と答《こた》えました。
 鬼《おに》は、
「ううん。」
 といって、またばりばり何《なに》かをかじ
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