》み分《わ》けて行きますと、ひょっこり平《たい》らな土地《とち》へ出ました。よく見《み》ると、人の家《いえ》の垣根《かきね》らしいものがあって、中には人が住《す》んでいるようですから、坊《ぼう》さんたちは地獄《じごく》で仏《ほとけ》さまに会《あ》ったようによろこんで、ずんずん中へ入《はい》ってみますと、なるほど一|軒《けん》そこに家《いえ》がありました。
 でもよく考《かんが》えてみると、こんな人の匂《にお》いもしそうもない深《ふか》い山奥《やまおく》にだれか住《す》んでいるというのがふしぎなことですから、きっと人間《にんげん》ではない、鬼《おに》が化《ば》けたのか、それともきつねかたぬきかが化《ば》かすのではないかと思《おも》って、少《すこ》し気味《きみ》が悪《わる》くなりました。けれど何《なに》しろくたびれきって一足《ひとあし》も歩《ある》けない上に、おなかがすききっているものですから、もう鬼《おに》でも化《ば》け物《もの》でもかまわない、とにかく休《やす》ませてもらおうと思《おも》って、その家《いえ》の戸《と》をとんとんたたきました。
 すると中から「だれだ。」といって、六十ばか
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