人馬
楠山正雄

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)坊《ぼう》さん

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)三|人《にん》
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     一

 むかし、三|人《にん》の坊《ぼう》さんが、日本《にっぽん》の国中《くにじゅう》を方々《ほうぼう》修行《しゅぎょう》して歩《ある》いていました。四国《しこく》の島《しま》へ渡《わた》って、海《うみ》ばたの村《むら》を托鉢《たくはつ》して歩《ある》いているうちに、ある日いつどこで道《みち》を間違《まちが》えたか、山の中へ迷《まよ》い込《こ》んでしまいました。行けば行くほどだんだん深《ふか》い深《ふか》い山道《やまみち》に迷《まよ》い込《こ》んで、どうしてももとの海《うみ》ばたへ出ることができません。そのうちにだんだん日が暮《く》れてきて、足もとが暗《くら》くなりました。気《き》をあせればあせるほどよけい道《みち》が分《わ》からなくなって、とうとう人の足跡《あしあと》のない深《ふか》い山奥《やまおく》の谷《たに》の中に入《はい》り込《こ》んでしまいました。もう道《みち》のない草《くさ》の中をやたらに踏《ふ》み分《わ》けて行きますと、ひょっこり平《たい》らな土地《とち》へ出ました。よく見《み》ると、人の家《いえ》の垣根《かきね》らしいものがあって、中には人が住《す》んでいるようですから、坊《ぼう》さんたちは地獄《じごく》で仏《ほとけ》さまに会《あ》ったようによろこんで、ずんずん中へ入《はい》ってみますと、なるほど一|軒《けん》そこに家《いえ》がありました。
 でもよく考《かんが》えてみると、こんな人の匂《にお》いもしそうもない深《ふか》い山奥《やまおく》にだれか住《す》んでいるというのがふしぎなことですから、きっと人間《にんげん》ではない、鬼《おに》が化《ば》けたのか、それともきつねかたぬきかが化《ば》かすのではないかと思《おも》って、少《すこ》し気味《きみ》が悪《わる》くなりました。けれど何《なに》しろくたびれきって一足《ひとあし》も歩《ある》けない上に、おなかがすききっているものですから、もう鬼《おに》でも化《ば》け物《もの》でもかまわない、とにかく休《やす》ませてもらおうと思《おも》って、その家《いえ》の戸《と》をとんとんたたきました。
 すると中から「だれだ。」といって、六十ばか
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