体《はだか》の上をまた五十たび打《う》ちました。すっかりでちょうど百たび打《う》った時《とき》、もうだんだん虫《むし》の鳴《な》くような声《こえ》でそれでもひいひいいっていた坊《ぼう》さんは、急《きゅう》に一声《ひとこえ》高《たか》く「ひひん。」と、馬《うま》のいななくような声《こえ》を出《だ》しました。その拍子《ひょうし》に顔《かお》が急《きゅう》に伸《の》びて、馬《うま》のような顔《かお》になりました。みるみる体《からだ》が馬《うま》になって、たてがみが立《た》って、しっぽがはえて、手足《てあし》を地《じ》びたにつけて、ひょいと立《た》ちますと、もうそれはりっぱな四|本《ほん》の足《あし》になって、砂《すな》をけっていました。それはどこから見《み》てもほんとうの馬《うま》に違《ちが》いはありませんでした。
 鬼《おに》の坊《ぼう》さんは、その馬《うま》にくつわをかませて綱《つな》をつけて、馬屋《うまや》へ引《ひ》いていきました。あとの二人《ふたり》は目の前《まえ》で自分《じぶん》の仲間《なかま》が馬《うま》になってしまったので、自分《じぶん》たちもいずれ同《おな》じめにあうのだろうと思《おも》うと、生《い》きたそらはないので、真《ま》っ青《さお》な顔《かお》をして、ぶるぶるふるえていました。するとさっきの鬼《おに》の坊《ぼう》さんは、また戻《もど》って来《き》て、こんどは二ばんめの坊《ぼう》さんを庭《にわ》に引《ひ》き下《お》ろして、同《おな》じようにむちで百たびぶちますと、これも馬《うま》になって、「ひひん。」といななきながら四《よ》つ足《あし》で立《た》ちました。その時《とき》鬼《おに》の坊《ぼう》さんはむちをほうり出《だ》して、
「ああ、くたびれた。少《すこ》し休《やす》もう。」
 といって、汗《あせ》をふきますと、あるじの坊《ぼう》さんも、
「どれ、飯《めし》を食《た》べて来《く》るかな。」
 といって、立《た》ち上《あ》がりました。そして行きがけに、もう一人《ひとり》残《のこ》ってふるえている坊《ぼう》さんをこわい目でにらめつけて、
「そこにじっとしていろ。すぐに戻《もど》って来《く》るから。」
 といって、もう一人《ひとり》の鬼《おに》の坊《ぼう》さんと奥《おく》へ入《はい》っていきました。

     二

 その後《あと》で坊《ぼう》さんは、心《
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