青青としげったあしの葉のあいだからすきみしました。すると風が来て、ひいさまの銀いろしたながいヴェールをひらひらさせました。たまにそれを見たものは、はくちょう[#「はくちょう」に傍点]がつばさをひろげたのだとおもいました。
 夜な夜な、船にかがりをたいて、りょうに出るりょうしたちからも、ひいさまはたびたび、わかい王子のいいうわさをききました。そうして、そんなにもほめものになっているひとが波の上に死にかけてただよっているところを、じぶんがすくったのだとおもってうれしくなりました。それから、あのとき、あの方のおつむりは、なんておだやかにあたしの胸のうえにのっていたことかしら、それをあたしはどんなに心をこめて、ほおずりしてあげたことかしらとおもっていました。そのくせ、王子のほうでは、むろんそういうことをまるで知りませんでした。つい、夢にすらみてはくれないのです。
 だんだんに、だんだんに、人間というものが、とうとくおもわれて来ました。だんだんに、だんだんに、どうぞして人間のなかまにはいっていきたいと、ねがうようになりました。人間の世界は、人魚の世界にくらべて、はるかに大きくおもわれました。人間
前へ 次へ
全62ページ中26ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング