がなんであったか、たずねましたが、ちょっぴりともその話はしませんでした。
[#挿絵(fig42383_02.png)入る]
晩に、朝に、いくたびとなく、このひいさまは、王子をおいて来た浜ちかく上がっていってみました。園のくだものが実のって、やがてもがれるのもみました。山山のいただきに、雪の消えるのもみました。けれども、ひいさまは、もう王子のすがたをみることはありませんでした。そうして、そのたんびに、いつもよけいせつないおもいでかえって来ました。こうなると、ただひとつのたのしみは、れいのちいさな花壇のなかで、うつくしい王子に似た大理石の像に、両腕をかけることでした。けれども花壇の花にはもうかまわなくなりました。それは、路のうえまで茂りほうだいしげって、そのながくのびたじくや葉を、あたりの木の枝に、所かまわずからみつけましたから、そこらはどこも、おぐらくなっていました。
とうとう、いつまでもこうしているのが、ひいさまにはたえられなくなりました。それで、ひとりのおねえさまにうちあけますと、やがて、ほかのおねえさまたちの耳にもはいりました。でも、このひいさまたちと、そのほかに二、三人の、海
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