こには、世にもめずらしい木や草がたくさんしげっていて、そのじくや葉のしなやかなことといったら、ほんのかすかに水がゆらいだのにも、いっしょにゆれて、まるで生きものがうごいているようです。ちいさいのも、おおきいのも、いろんなおさかなが、その枝と枝とのなかをつうい、つういとくぐりぬけて行くところは、地の上で、鳥たちが、空をとびまわるのとかわりはありません。この海の底をずっと底まで行ったところに、海の人魚の王さまが御殿をかまえています。その御殿の壁は、さんご[#「さんご」に傍点]でできていて、ほそながく、さきのとがった窓は、すきとおったこはく[#「こはく」に傍点]の窓でした。屋根は貝がらでふけていて、海の水がさしひきするにつれて、貝のふたは、ひとりでにあいたりしまったりします。これはなかなかうつくしいみものでした。なぜといって、一枚一枚の貝がらには、それひとつでも女王さまのかんむりのりっぱなそうしょくになるような、大きな真珠《しんじゅ》がはめてあるのでしたからね。
 ところで、この御殿のあるじの王さまは、もうなが年のやもめぐらしで、そのかわり、年とったおかあさまが、いっさい、うちのことを引きう
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