らって来《き》たのだよ。」
 こう言《い》ってつづらを下《お》ろすと、おばあさんは急《きゅう》ににこにこしながら、
「まあ、それはようございましたねえ。いったい何《なに》が入《はい》っているのでしょう。」
 と言《い》って、さっそくつづらのふたをあけますと、中から目のさめるような金銀《きんぎん》さんごや、宝珠《ほうじゅ》の玉《たま》が出てきました。それを見《み》るとおじいさんは、とくいらしい顔《かお》をして言《い》いました。
「なにね、すずめは重《おも》いつづらと軽《かる》いつづらと二つ出《だ》して、どちらがいいというから、わたしは年《とし》はとっているし、道《みち》も遠《とお》いから、軽《かる》いつづらにしようといってもらってきたのだが、こんなにいいものが入《はい》っていようとは思《おも》わなかった。」
 するとおばあさんは急《きゅう》にまたふくれっ面《つら》をして、
「ばかなおじいさん。なぜ重《おも》い方《ほう》をもらってこなかったのです。その方《ほう》がきっとたくさん、いいものが入《はい》っていたでしょうに。」
「まあ、そう欲《よく》ばるものではないよ。これだけいいものが入《はい》っていれば、たくさんではないか。」
「どうしてたくさんなものですか。よしよし、これから行《い》って、わたしが重《おも》いつづらの方《ほう》ももらってきます。」
 と言《い》って、おじいさんが止《と》めるのも聞《き》かず、あくる日の朝《あさ》になるまで待《ま》たれないで、すぐにうちをとび出《だ》しました。
 もう外《そと》はまっ暗《くら》になっていましたが、おばあさんは欲《よく》ばった一心《いっしん》でむちゃくちゃにつえをつき立《た》てながら、
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「舌切《したき》りすずめ、
お宿《やど》はどこだ、
チュウ、チュウ、チュウ。」
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 と言《い》い言《い》いたずねて行きました。野《の》を越《こ》え、山を越《こ》えて、また野《の》を越《こ》えて、山を越《こ》えて、大きな竹《たけ》やぶのある所《ところ》へ来《き》ますと、やぶの中から、
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「舌切《したき》りすずめ、
お宿《やど》はここよ。
チュウ、チュウ、チュウ。」
[#ここで字下げ終わり]
 という声《こえ》がしました。おばあさんは「しめた。」と思《おも》って、声《こえ》のする
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