方《ほう》へ歩《ある》いて行きますと、舌《した》を切《き》られたすずめがこんども門《もん》をあけて出てきました。そしてやさしく、
「まあ、おばあさんでしたか。よくいらっしゃいました。」
と言《い》って、うちの中へ案内《あんない》をしました。そして、
「さあ、どうぞお上《あ》がり下《くだ》さいまし。」
とおばあさんの手《て》を取《と》っておざしきへ上《あ》げようとしましたが、おばあさんは何《なん》だかせわしそうにきょときょと見《み》まわしてばかりいて、おちついて座《すわ》ろうともしませんでした。
「いいえ、お前《まえ》さんのぶじな顔《かお》を見《み》ればそれで用《よう》はすんだのだから、もうかまっておくれでない。それよりか早《はや》くおみやげをもらって、おいとましましょう。」
いきなりおみやげのさいそくをされたので、すずめはまあ欲《よく》の深《ふか》いおばあさんだとあきれてしまいましたが、おばあさんはへいきな顔《かお》で、
「さあ、早《はや》くして下《くだ》さいよ。」
と、じれったそうに言《い》うものですから、
「はい、はい、それではしばらくお待《ま》ち下《くだ》さいまし。今《いま》おみやげを持《も》ってまいりますから。」
と言《い》って、奥《おく》からつづらを二つ出《だ》してきました。
「さあ、それでは重《おも》い方《ほう》と軽《かる》い方《ほう》と二つありますから、どちらでもよろしい方《ほう》をお持《も》ち下《くだ》さい。」
「それはむろん、重《おも》い方《ほう》をもらっていきますよ。」
と言《い》うなりおばあさんは、重《おも》いつづらを背中《せなか》にしょい上《あ》げてあいさつもそこそこに出ていきました。
おばあさんは重《おも》いつづらを首尾《しゅび》よくもらったものの、それでなくっても重《おも》いつづらが、背負《せお》って歩《ある》いて行くうちにどんどん、どんどん重《おも》くなって、さすがに強情《ごうじょう》なおばあさんも、もう肩《かた》が抜《ぬ》けて腰《こし》の骨《ほね》が折《お》れそうになりました。それでも、
「重《おも》いだけに宝《たから》がよけい入《はい》っているのだから、ほんとうに楽《たの》しみだ。いったいどんなものが入《はい》っているのだろう。ここらでちょいと一休《ひとやす》みして、ためしに少《すこ》しあけてみよう。」
こう独《ひと
前へ
次へ
全6ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング