赤い玉
楠山正雄
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)大国主命《おおくにぬしのみこと》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)ある日|一人《ひとり》
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一
これも大国主命《おおくにぬしのみこと》が、八千矛《やちほこ》をつえについて、国々《くにぐに》をめぐって歩《ある》いておいでになる時《とき》のことでした。ある時《とき》摂津国《せっつのくに》の難波《なにわ》の津《つ》までおいでになりますと、見慣《みな》れない神《かみ》さまが、海《うみ》を渡《わた》って向《む》こうからやって来《き》ました。命《みこと》が、
「あなたはだれです。」
とお聞《き》きになりますと、その神《かみ》さまは、
「わたしは新羅《しらぎ》の国《くに》からはるばる渡《わた》って来《き》た天日矛命《あまのひぼこのみこと》というものです。どうぞこの国《くに》の中で、わたしの住《す》む土地《とち》を貸《か》して頂《いただ》きたい。」
と頼《たの》みました。命《みこと》はしばらく考《かんが》えておいでになりましたが、
「この国《くに》はわたしの治《おさ》めている土地《とち》で、あなたに貸《か》して上《あ》げる場所《ばしょ》といって、ほかにありません。では海《うみ》の中を貸《か》しましょう。」
とおっしゃいました。
こういわれて、天日矛命《あまのひぼこのみこと》は、困《こま》って帰《かえ》って行くかと思《おも》いのほか、
「では海《うみ》を拝借《はいしゃく》いたします。」
といって、腰《こし》につるした剣《つるぎ》を抜《ぬ》いて、海《うみ》の水《みず》をかき回《まわ》しますと、みるみるそこへりっぱな御殿《ごてん》が出来上《できあ》がりました。大国主命《おおくにぬしのみこと》はそれをごらんになると、
「これはなかなかえらい神《かみ》だ。用心《ようじん》をしなければならない。」
と思《おも》って、家来《けらい》にいいつけて摂津国《せっつのくに》を固《かた》くお守《まも》らせになりました。
二
さてこの天日矛命《あまのひぼこのみこと》というのは、もと新羅《しらぎ》の国《くに》の王子《おうじ》でした。それがどうして日本《にっぽん》へ渡《わた》って来《き》て、こちらに住《す》むようになったか、それにはこういうお話《はなし》があります
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