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新羅《しらぎ》の国《くに》の阿具沼《あぐぬま》という沼《ぬま》のそばで、ある日|一人《ひとり》の女が昼寝《ひるね》をしておりました。するとふしぎにも日の光《ひかり》が虹《にじ》のようになって、寝《ね》ている女の体《からだ》にさし込《こ》みました。
すると間《ま》もなく女は身持《みも》ちになって、やがて赤《あか》い玉《たま》を一つ生《う》み落《お》としました。ちょうど女の寝《ね》ていた時《とき》、そばを通《とお》りかかって様子《ようす》を見《み》ていた一人《ひとり》の百姓《ひゃくしょう》が、はじめからふしぎに思《おも》って、どうなるかと気《き》をつけていましたが、女が赤《あか》い玉《たま》を生《う》んだのを見《み》て、それをもらって帰《かえ》りました。
この百姓《ひゃくしょう》は谷《たに》の間《あいだ》に田を作《つく》っていました。ある日そこで働《はたら》いている男たちの食《た》べ物《もの》を牛《うし》に背負《せお》わせて運《はこ》んで行きますと、ふと王子《おうじ》の天日矛《あまのひぼこ》に途中《とちゅう》で出会《であ》いました。王子《おうじ》は百姓《ひゃくしょう》が人通《ひとどお》りのない谷奥《たにおく》へ牛《うし》を引《ひ》いて行くのを妙《みょう》に思《おも》って、
「これこれ、牛《うし》を引《ひ》いてどこへ行くのだ。谷底《たにそこ》の人のいない所《ところ》で、殺《ころ》して食《た》べるつもりだろう。」
といいながら、百姓《ひゃくしょう》をつかまえて、牢屋《ろうや》へ連《つ》れて行こうとしました。
「いいえ、わたくしはこの牛《うし》に、百姓《ひゃくしょう》たちの食《た》べ物《もの》を積《つ》んで引《ひ》いて行くだけで、けっして殺《ころ》して食《た》べるのではありません。」
といいました。けれども王子《おうじ》はうそだといって、なかなか聴《き》いてくれませんので、百姓《ひゃくしょう》はしかたなしに、もらった赤《あか》い玉《たま》を出《だ》して、王子《おうじ》にやって、やっと放《はな》してもらいました。
王子《おうじ》がその玉《たま》をうちへ持《も》って帰《かえ》って、床《とこ》の間《ま》に飾《かざ》っておきますと、その晩《ばん》、赤《あか》い玉《たま》が急《きゅう》に一人《ひとり》の美《うつく》しい娘《むすめ》になりました。王子《おうじ》はその娘《む
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