春山秋山
楠山正雄
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)但馬国《たじまのくに》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)ある日|兄《あに》の
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一
むかし、但馬国《たじまのくに》におまつられになっている出石《いずし》の大神《おおがみ》のお女《むすめ》に、出石少女《いずしおとめ》という大《たい》そう美《うつく》しい女神《めがみ》がお生《う》まれになりました。この少女《おとめ》をいろいろな神様《かみさま》がお嫁《よめ》にもらおうと思《おも》って争《あらそ》いました。けれども少女《おとめ》はお嫁《よめ》に行くことをいやがって、だれのいうことも聴《き》こうとはなさいませんでした。
この神《かみ》さまたちの中に、秋山《あきやま》の下氷男《したびおとこ》と春山《はるやま》の霞男《かすみおとこ》という兄弟《きょうだい》の神《かみ》さまがありました。ある日|兄《あに》の秋山《あきやま》の下氷男《したびおとこ》は、弟《おとうと》の霞男《かすみおとこ》に向《む》かって、
「わたしはあの少女《おとめ》をお嫁《よめ》にもらいたいと思《おも》っていろいろに骨《ほね》を折《お》ってみたが、どうしてもいうことを聴《き》いてくれない。どうだ、お前《まえ》ならもらえると思《おも》うか。」
と聞《き》きました。
「わたしなら、わけなくもらってみせますよ。」
と弟《おとうと》の神《かみ》が、笑《わら》いながらいいました。
「ふん、そんならお前《まえ》とわたしと、どちらが早《はや》く少女《おとめ》をもらうか競争《きょうそう》をしよう。もしわたしが負《ま》ければ、この着物《きもの》をぬいでお前《まえ》に上《あ》げよう、そしてわたしの背《せい》の高《たか》さだけの大きなかめに酒《さけ》をなみなみ盛《も》って、海山《うみやま》のごちそうを一通《ひととお》りそろえて、お客《きゃく》に呼《よ》んでやろう。」
といいました。すると霞男《かすみおとこ》はいよいよおもしろがって、
「ようございますとも。そのかわり万一《まんいち》わたしが負《ま》けたら、にいさんの代《か》わりに、わたしがごちそうをしましょう。」
こう約束《やくそく》をして別《わか》れました。
弟《おとうと》の神《かみ》はそれからうちへ帰《かえ》って、兄神《あにがみ》と賭《かけ》をしたこ
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