とをおかあさんに話《はな》しますと、おかあさんは、
「よしよし、わたしがその賭《かけ》に勝《か》たせて上《あ》げよう。」
 とおっしゃいました。
 おかあさんはそれから、一晩《ひとばん》のうちにたくさんの藤《ふじ》のつるで、着物《きもの》と袴《はかま》と、靴《くつ》から靴下《くつした》まで織《お》って、編《あ》んで、縫《ぬ》って、その上にやはり藤《ふじ》のつるで、弓《ゆみ》と矢《や》をこしらえて下《くだ》さいました。
 弟《おとうと》の神《かみ》は大《たい》そう喜《よろこ》んで、おかあさんのこしらえて下《くだ》さった藤《ふじ》づるの着物《きもの》や靴《くつ》を体《からだ》につけて、藤《ふじ》づるの弓矢《ゆみや》を手《て》に持《も》ちました。そして、うきうきうかれながら、野《の》を越《こ》え山を越《こ》えて、少女《おとめ》の家《いえ》へ急《いそ》いで行きました。
 いよいよ女神《めがみ》の家《いえ》の前《まえ》まで来《き》ますと、着物《きもの》から靴《くつ》から弓矢《ゆみや》まで、残《のこ》らず一|度《ど》にぱっと紫色《むらさきいろ》の藤《ふじ》の花《はな》が咲《さ》き出《だ》して、それは絵《え》にかいたような美《うつく》しい姿《すがた》になりました。それから弟《おとうと》の神《かみ》は、藤《ふじ》の花《はな》の咲《さ》いた弓矢《ゆみや》を少女《おとめ》の居間《いま》の戸《と》の前《まえ》にたてかけておきますと、少女《おとめ》が出がけにそれを見《み》つけて、ふしぎに思《おも》いながら、きれいなものですから、つい手に持《も》って出ようとしました。そのとき弟《おとうと》の神《かみ》はすかさずそのあとについて行って、
「あなた、どうぞわたしのお嫁《よめ》になって下《くだ》さい。」
 といいました。少女《おとめ》はびっくりして、ふと自分《じぶん》に物《もの》をいいかけたものの方《ほう》をふり向《む》きますと、そこに目もくらむように美《うつく》しい花《はな》に飾《かざ》られた若《わか》い男神《おがみ》が、気高《けだか》い姿《すがた》をして立《た》っていました。少女《おとめ》はすぐ男神《おがみ》のお嫁《よめ》になりました。やがて二人《ふたり》の間《あいだ》には子供《こども》が一人《ひとり》生《う》まれました。

     二

 その後《のち》弟《おとうと》の神《かみ》は兄《あに
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