したようになって、
「あら、おかあさん。」
 と呼《よ》びかけました。そしていつまでもいつまでも、顔《かお》を鏡《かがみ》に押《お》しつけてのぞき込《こ》んでいました。

     三

 その後《のち》おとうさんは人にすすめられて、二|度《ど》めのおかあさんをもらいました。
 おとうさんは娘《むすめ》に、
「こんどのおかあさんもいいおかあさんだから、亡《な》くなったおかあさんと同《おな》じように、だいじにして、いうことを聴《き》くのだよ。」
 といいました。
 娘《むすめ》はおとなしくおとうさんのいうことを聴《き》いて、
「おかあさん、おかあさん。」
 といって慕《した》いますと、こんどのおかあさんも、先《せん》のおかあさんのように、娘《むすめ》をよくかわいがりました。おとうさんはそれを見《み》て、よろこんでいました。
 それでも娘《むすめ》はやはり時々《ときどき》、先《せん》のおかあさんがこいしくなりました。そういう時《とき》、いつもそっと一間《ひとま》に入《はい》って、れいの鏡《かがみ》を出《だ》してのぞきますと、鏡《かがみ》の中にはそのたんびにおかあさんが現《あらわ》れて、
「おや、お前《まえ》、おかあさんはこのとおり達者《たっしゃ》ですよ。」
 というように、にっこり笑《わら》いかけました。
 こんどのおかあさんは、時々《ときどき》娘《むすめ》が悲《かな》しそうな顔《かお》をしているのを見《み》つけて心配《しんぱい》しました。そしてそういう時《とき》、いつも一間《ひとま》に入《はい》り込《こ》んで、いつまでも出てこないのを知《し》って、よけい心配《しんぱい》になりました。そう思《おも》って娘《むすめ》に聴《き》いても、
「いいえ、何《なん》でもありません。」
 と答《こた》えるだけでした。でもおかあさんは、何《なん》だか娘《むすめ》が自分《じぶん》にかくしていることがあるように疑《うたぐ》って、だんだん娘《むすめ》がにくらしくなりました。それである時《とき》おとうさんにその話《はなし》をしました。おとうさんもふしぎがって、
「よしよし、こんどおれが見《み》てやろう。」
 といって、ある日そっと娘《むすめ》の後《あと》から一間《ひとま》に入《はい》って行《い》きました。そして娘《むすめ》が一心《いっしん》に鏡《かがみ》の中に見入《みい》っているうしろから、出
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