のはありません。そこで侍従長は、また皇帝のごぜんにかけもどってきて、さよなきどりのことは、本をかきましたものの、かってなつくりばなしにちがいありませんと申しました。
「おそれながら陛下《へいか》、すべて書物《しょもつ》にかいてありますことを、そのままお用《もち》いになってはなりません。あれはこしらえごとでございます。いわば、妖術《ようじゅつ》魔法《まほう》のるいでございます。」
「いや、しかし、わたしがこの鳥のことをよんだ本というのは、」と、皇帝はおっしゃいました。「叡聖文武《えいせいぶんぶ》なる日本皇帝よりおくられたもので、それにうそいつわりの書いてあろうはずはないぞ。わたしはぜひとも、さよなきどりのこえをきく。どうあっても、こんばんつれてまいれ。かれはわたしの第一《だいいち》のきにいりであるぞ。それゆえ、そのとおり、とりはからわぬにおいては、この宮中につかえるたれかれのこらず、夕食ののち、横《よこ》ッ腹《ぱら》をふむことにいたすから、さようこころえよ。」
「チン ペ。」と、侍従長は申しました。それからまた、ありったけの階段を上ったり下りたり、廊下や広間をのこらずかけぬけました。御殿
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