が、こんど、ごびょうきにかかられて、もうながいことはあるまいという、うわさがたちました。あたらしい皇帝も、もうかわりにえらばれていました。じんみんたちは往来《おうらい》にあつまって、れいの侍従長に、皇帝さまは、どんなごようだいでございますかと、たずねました。するとこのひとは、いつものように「ペ」といって、あたまをふりました。
ひえこおった青いかおをして、皇帝は、うつくしくかざりたてた、大きなおねだいに、よこになっておいでになりました。宮中の役人たちは、もう皇帝は、おなくなりになったと、おもって、われがちに、あたらしい皇帝のところへ、おいわいのことばを、申しあげに出かけていきました。その下のめし使のおとこたちも、そここことかけまわって、そのことでしゃべりあいました。めし使の女たちもあつまって、さかんなお茶の会をやっていました。広間にも、廊下にも、のこらず、ぬのがしかれているので、なんの足音もきこえず、御殿の中はまったく、しんかんとしていました。
けれども陛下は、まだおかくれになったというわけではなく、やせほそり、色は青ざめながら、ながいびろうどのとばりをたれて、どっしりとおもい金のふさのさがった、きらびやかなしんだいの上にやすんでおいでになりました。高いところにあるまどが、あけてあって、そこからさしこむ月のひかりが、陛下とそのそばにおかれた、さいくもののさよなきどりを、てらしていました。
[#挿絵(fig42381_02.png)入る]
おかわいそうに、皇帝は、まるでなにかが、むねの上にのってでもいるように、いきをすることもむずかしいようすでした。陛下が目をみひらいて、ごらんになると、おむねの上には、死神《しにがみ》が、皇帝の金のかんむりをかぶり、片手には皇帝のけんを、片手に皇帝のうつくしいはたをもって、すわっていました。そうして、りっぱなびろうどのとばりの、ひだのあいだには、ずらりと、みなれない、いくつものくびがならんで、のぞきこんでいました。ひどくみにくいかおつきをしているものもありましたが、いたっておとなしやかなものも、ありました。これらのくびは、みんな、この皇帝のこれまでなさった、よいおこないや、わるいおこないで、いま、死神がそのしんぞうの上にすわったというので、みんなきて、ながめているというわけでした。
「このことを、おぼえているか。」
「こんなことも
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