いきりました。
「なぜと申しまするに、みなさま、とりわけ陛下におかせられまして、ごらんのとおり、ほんもののさよなきどりにいたしますると、つぎになにをうたいだすか、まえもって、はかりしることができません。しかるに、このさいくどりにおきましては、すべてがはっきりきまっております。かならずそうなって、かわることがございません。これはこうだと、せつめいができます。なかをあけて、どうワルツがいれてあるか、それがうたいすすんで、歌がつぎからつぎへとうつって行きますぐあいを、人民ども、だれのあたまにもはいるように、しめしてみせることが、できるのでございます――。」
「まったくご同感《どうかん》であります。」と、みんなはいいました。
そこで、楽師長は、さっそく、つぎの日曜日《にちようび》には、ひろく人民たちに、ことり拝観《はいかん》をゆるされるようにねがいました。ついでにうたもきかせるようにと、皇帝はおめいじになりました。そんなわけでたれもそのうたをきくことになって、まるでお茶によったようによろこんでしまいました。このお茶にようということは、シナ人のくせでした。そこでみんな、「おお。」と、いったのち、人さしゆびをたかくさし上げて、うなずきました。けれども、ほんもののさよなきどりをきいたことのある、れいのびんぼう漁師《りょうし》は、
「なかなかいいこえでうたうし、ふしもにているが、どうも、なんだかものたりないな。」といいました。
ほんもののさよなきどりは、都の土地からも、国からもおわれてしまいました。
さいくどりは、皇帝のお寝台《ねだい》ちかく、絹《きぬ》のふとんの上に、すわることにきまりました。この鳥に贈られて来た黄金と宝石が、のこらず、鳥のまわりにならべ立てられました。鳥は、「帝室御夜詰歌手長《ていしつおんよづめかしゅちょう》」の栄職《えいしょく》をたまわり、左側第一位《ひだりがわだいいちい》の高位にものぼりました。たいせつなしんぞうが、このがわにあるというので、皇帝は、左《ひだり》がわをことにおもんぜられました。するとしんぞうは、皇帝でもやはり左がわにあるとみえますね。それから、れいの楽師長は、さいくどりについて、二十五巻もある本をかきました。さて、この本は、ずいぶん学者ぶってもいて、それに、とてもしちむずかしい漢語《かんご》がいっぱい、つかってありました。そのくせたれも
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