「もうこんどこそは助《たす》からない。」と思《おも》いました。「山姥《やまうば》のやつ、おれが上にいるのを知《し》って、上《あ》がってきて食《た》べるつもりだろう。ああ、もうどうしようもない。観音《かんのん》さま、観音《かんのん》さま、どうぞお助《たす》け下《くだ》さいまし。」
 こう心《こころ》の中に念《ねん》じながら、今《いま》にも山姥《やまうば》が上《あ》がってくるか、上《あ》がってくるかと待《ま》っていました。
 ところが山姥《やまうば》は、すぐにはなかなか上《あ》がってきませんでした。やがてまた大きなあくびをして、
「二|階《かい》に寝《ね》ればねずみがさわぐ。臼《うす》の中《なか》はくもの巣《す》だらけ。釜《かま》の中は温《あたた》かで、用心《ようじん》がいちばんいい。そうだ、やっぱり釜《かま》の中に寝《ね》よう。」
 と、独《ひと》り言《ごと》をいいながら、大きなお釜《かま》のふたを取《と》って、中に入《はい》ったかと思《おも》うと、やがてぐうぐう、ぐうぐう、高《たか》いびきで眠《ねむ》ってしまいました。
 二|階《かい》からこの様子《ようす》を見《み》ていた馬吉《うまき
前へ 次へ
全19ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング