人の住《す》んでいないうちなのだ。それでもしかたがない。今夜《こんや》はそっとここにかくれて、夜《よ》の明《あ》けるのを待《ま》つことにしよう。」
 と、独《ひと》り言《ごと》をいいながら、馬吉《うまきち》はそっと上《あ》がっていきますと、そこはそれでも二|階家《かいや》で、上は物置《ものおき》のようになっていました。
「同《おな》じかくれるにしても、二|階《かい》の方《ほう》が用心《ようじん》がいい。」と思《おも》って、馬吉《うまきち》は二|階《かい》に上《あ》がって、そっとすすだらけな畳《たたみ》の上にごろりと横《よこ》になりました。横《よこ》になって、どうかして眠《ねむ》ろうとしましたが、何《なん》だか目がさえて眠《ねむ》られません、始終《しじゅう》外《そと》の物音《ものおと》ばかりに気《き》を取《と》られて、胸《むね》をどきどきさせていました。

       二

 するとその晩《ばん》夜中《よなか》過《す》ぎになって、しっかりしめておいたはずのおもての戸《と》がひとりでにすうっとあいて、だれかが入《はい》って来《き》た様子《ようす》です。
「はてな。」と思《おも》って、馬吉
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